↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/21

第4話:最初の一歩

 

 ギルドを出て、町の南門へと向かう。そこは近郊の『銅級ダンジョン』へと続く街道の入り口だった。

 イムは酔っぱらいのアドバイスを聞いて、とりあえず逆らう理由もないしゴブリン討伐からやってみようと考えそこに向かっていた。


 走って門を超えようとしたところで、門を守る巨漢の大槍兵、ダレルがイムの姿を見て声をかけてきた。


「おいおい、そこの坊主! 見かけない顔だな、一人か?」


「おう! 今日探索者になったばっかりのイムって言うんだ! これから何度も通ると思う! よろしくな、おっちゃん!」


「おっちゃん……。まぁ、坊主みたいなのからしたらおっちゃんか。俺はダレルだ。おい、坊主。行くのは銅級ダンジョンか?」


 門番のダレルはイムの格好を見て少し心配そうに問いかける。


「ん? そうだぜ! 銅級ダンジョンに行ってゴブリンぶっ殺してくるわ!」


「そうか、でもそんな粗末な短剣一本。しかも一人で大丈夫か? ゴブリンは群れることも多いから考えているよりも危険だぞ」


 傍から見たイムの姿は、腰に粗末な短剣を差し、一人で郊外に出ようとしている少年だった。

 ダレルは心配から、思わずそう言ってしまう。


「粗末とは失礼な! 立派な短剣だろ? でも心配ありがとな、おっちゃん。俺魔法使えるから余裕だと思うぜ?」


 イムはそう返しながら不敵な笑みを浮かべ、手のひらから炎を吹き出した。


「おっ、坊主は魔法系ジョブだったか。なら要らん心配だったかもな、悪かった、気を付けていってこい!」


「おう! おっちゃんもありがとな!」


 元気よく門を潜り抜けたイムを、安心したような表情でダレルは見送った。






 銅級ダンジョンに続く道を歩いていくイム。

 周りに誰もいなくなって少し冷静になったイムは自身の『力』について考える。


(魔法……ね……)


 ふと歩くのを止め、手のひらに炎を生み出す。


 ゴォッ!っと燃え盛る火炎、だがそれは、イムには全く”温度を感じない炎”だった。

 それはイムが魔法の使い手だから温度を感じない、わけではない。


(見せかけ……なんだよな、コレ)


 そう言いながら炎を消し、自身にしか見えないステータスボードをその場で展開する。


【ジョブ:奇術師】

【スキル:奇術】


 シンプルに、そう書かれているステータスボードを見てため息を吐くイム。


 ――そう、イムのジョブは『勇者』でも『大魔導士』でもなかった……『奇術師』。

 彼が繰り出すド派手な火炎や美しい光の蝶、威圧感――それらは全て、攻撃力ゼロの【完全なる張りぼて】だったのである。


「なーにが、勇者だよってな。俺の使う魔法は、魔法なんて上等なもんじゃない。ただの奇術、実体のない幻だってのにな」


 一人つぶやき、自嘲するように笑うイム。


「あー、ダメだな、一人になると。……よし切り替えよう、いや、切り替えた。俺は、孤児院のみんなを救うんだろ? よし、ゴブリンなんかにビビんねぇぞ」


 すでに見えていた銅級ダンジョンの入り口を見ながら、覚悟を決めるイム。

 平原にぽつりと空く下り階段のあるそこからダンジョンの中へと降りていく。




 ダンジョン内は少し湿った空気が漂い、階段を下りた先は、ほのかに光る苔がいたるところに生えて視界がうっすらと確保された洞窟のような場所だった。


 銅級ダンジョンの内部、イムは初めて来るそこを、珍しいものでも見るかのように見回しながら、緊張をほぐすように深呼吸をした。


「っふぅー。よし、行くぞ。俺ならやれる」


 ダンジョン内を歩いて数分、前方に小さな人影が見える。

 ―――それはゴブリン、その体は緑色の皮膚ででき、こん棒とぼろぼろの腰巻しかしていない最下級の魔物だった。


「キシャァァァァァ!」


 薄暗い通路を、イムの方に向かって叫びながら向かってくるゴブリン。


「っ!」


 イムの心臓が跳ね上がる。初めて見る魔物から初めて感じる本物の殺気。だが、威圧感だけで言えば探索者ギルドでからまれた酔っぱらいの方が強かった。


 そんなことを考えながらイムは冷静に、スキルの奇術を発動させる。


「炎弾!」


 術のイメージがしやすいように、声に出して発動するイム。

 それは直径1メートルに及ぶ大きな炎の弾であった。それが向かってくるゴブリンの方に飛ぶ。


「グギャァァ……ァ?」


 炎弾が直撃し、身構えて目を閉じ叫ぶゴブリンだったが、直撃したはずなのに自身の体には何も影響がなく困惑する。


 そして、イムはそれを見逃さない。案の定動きを止めたゴブリンに、自分から接近して腰から短剣を引き抜き、その腹に思いっきり突き立てる。


「グギャ!?」


「オラァ!」


「ガッ!」


 そのまま腹を刺されてひるんだゴブリンの腹から短剣を引き抜き、傷をつけた場所に追い打ちをかけるように蹴りを叩き込む。


「これで、終わりだ!」


 痛みで蹲るゴブリンのその差し出された首に、短剣を振り下ろす。

 叫び声をあげる間もなくゴブリンは絶命し、その身を魔石へと変化させた。


「……やったのか?」


 しばしの間、呆然とするイム。

 どれくらいそうしていたか、一分も経たないうちに自身の成し遂げたことへの認識が追いつく。


「……よし、よしっ! 俺でも勝てる! 勝てた! ははっ、やっぱやればできるじゃねぇか!」


 15歳のジョブを受け取ったとき、イムは密かに絶望していた。

 何故ならそれは、魔物を倒すには役に立たず、鍛冶や商人など生活の役に立つわけでもない。


 だから魔法だと偽って、周りを騙し、己すら騙して過ごしてきた。

 そんな日々を過ごしていたイムだったが、今回孤児院に危機が訪れた。


 自身に出来ることを考えた時、張りぼての自分に再度絶望した。

 だが、涙を流すシスターを、家族を見て黙っていられるほどお利巧でもなかった。


 そうしてイムは自身でも無謀だと考えながらも探索者になることを決意した。

 探索者になって最初に受付嬢から冷えた目で見られたり、酔っぱらいに絡まれたり、散々な目にあったがそれでも心は折れなかった。


 その結果がこれだ。

 役に立たないと思っていた奇術を使って、ゴブリンを殺すことができた。

 魔物を殺せば体が強くなると言われているのは知っていた。だがイムにとって、他の大多数の戦闘系でないジョブを持つ者にとって最大の難関とされるのは、一体目の魔物を如何にして倒すのか、だ。


 だが、イムは超えた。一人でゴブリンという魔物を倒すことができた。

 つまり、これから先もう伸びる事しかなく落ちることはない。そう考えるとイムの口元には自然と笑みが浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。