第3話:最初の試練と酔っぱらい
「さて、これからどうするのがいいのか……」
イムが受付から離れて掲示板の方へ来ると、悩みながら張られているクエストを見る。
『ゴブリンの魔石納品:一個あたり銅貨二枚』
『サンフラワーの採取:一輪あたり銅貨二枚、ただし状態によって増減有り』
『ゴブリンソードマンの魔石納品:一個あたり銅貨五枚、五個纏めて納品するたび追加一枚』
『ショウリン商店の手伝い:拘束時間半日、報酬銀貨三枚』
鉄級探索者が受けられる依頼と言えばこのあたりのようだと確認するイム。
そこに、酒場の方から一人の男が千鳥足でイムの方へと向かってきていた。
「っう、ふぅ~、おい~そこのガキ~……」
「なんだおっさん! ガキって俺のことか!」
酔っぱらった様子で話しかけてきた男にイムが対応すると、男はいきなり豹変してイムを怒鳴りつける。
「あぁあん!? ガキッて言ったら……ひっく、てめぇ以外いねぇだろオロロロロロロロ」
「うわっ、きたねぇなおっさん! 大丈夫かよ!」
怒鳴ったと思えば次の瞬間に吐き散らかした男。そんな男を目の前にしてイムはきたねぇと思うと同時に心配もしていた。
「……ぁあ~、すっきりした。……ん? あぁ、大丈夫だよ大丈夫、こんなん日常よぉ~、ヒック」
「おおぅ、大丈夫ならいいけどよ。それでなんだよおっさん」
「ぁあ? あ~、そうだ、ガキィ、お前さっき探索者登録したばっかだろ?」
少し冷静になった様子の男は、そうイムに問いかける。
イムも別に隠すことではないと正直に答える。
「おう! ぴっちぴちの鉄級探索者だな!」
「ガハハ、そりゃいいな。で、俺はお前に警告しに来てやったのさ」
「警告?」
「そうだ、おまえみてぇなガキはな、すぐに調子乗って死にやがるぅ。だからな、どうせ死ぬぐらいならここで探索者止めちまった方が身のためだぜぇ!? それとも調子乗って死ぬか!? なら俺がここで殺してやるよぉ!!!」
腰の剣を抜き放ち、イムを威圧する男。
その威圧感は今までイムが感じたことのないもので、足が震えて崩れ落ちそうになる。
わけもわからず安全なはずのギルドでいきなり命の危険を感じたイムは混乱しつつも目の前の男に恐怖を覚える。
けれどその時、イムの頭には家族のことが鮮明に浮かび上がっていた。
自分たちを育てるために毎日忙しそうにするシスター、いつも楽しそうに遊ぶ弟妹を優しく見つめるクレラ、イムが奇術を使うたびに本当に楽しそうに笑うジルとチルア。
家族の生活が懸かっている。イムはこんなところで終わるわけにはいかないと、ビビる自分の心を張り倒し、前を向く。
「おっさん」
「あぁん?」
「俺はな、死なねぇよ」
もう、足の震えはない。手本なら、目の前にある。
イムは自身の体に重なるように『威圧感を作り出し』、目の前の男をにらみつける。
「俺は古の勇者にだって負けねぇ男だ、調子に乗って死ぬ? そんなわけ、ねぇだろうが!!」
「っ!?」
男は信じられなかった。偶にいる探索者に憧れをもったのか、はたまた自身の力を過信したのか探索者となってすぐに、身の丈に合わないクエストを受けて死ぬ奴。
そんな奴らと同じなのか、それとも何か理由があるのか一人の年若い男が新たに探索者になったのを見ていた。
だから、無茶無謀をしないよう、世の中にはかなわない相手も存在するのだと教えてやるために、おせっかいだとわかっていても動いてしまった男。
だが、結果はどうだ? 威圧してしょんべんちびるかと思ってみていれば、正面からこっちをにらみつけて大言壮語を言い放つ。しかも自身に負けないぐらいの威圧感を持って、だ。
面白い。素直に男はそう思った。
「……おいガキィ、てめぇ最初にどこ行くのかは決めてんのか?」
「ん? いや、まだ決めてないが……」
いきなり纏っていた威圧感を消して話しかけてきた男に、困惑しつつも答えるイム。
「俺の言うことを聞く効かないは自由だぁ、だが伝えておく、悪いことは言わねぇ、最初は銅級ダンジョンのゴブリン退治から始めるこったな、それだけだ」
「え?」
男はそれだけ言い残すと、イムに背を向け酒場の方へと戻っていく。
「……よくわかんないけど、アドバイスありがとな! おっさん!」
「けっ、せいぜい死なねぇこった。あ~あ、酔いがさめちまった、呑みなおすぜぇ~」
イムに向かって片手を振りながら立ち去る男。
アドバイス通りに最初は銅級ダンジョンに挑むことに決めたイムは、ギルドを出て南門へと向かう。
自身の力に不安を覚えながらも、唐突な試練を乗り越えたイムのその足取りは軽かった。




