第2話:探索者登録
「イムにい、ほんとに探索者になるの……?」
時は少し経ち、お昼ご飯を食べ終わってゆっくりしていた所で、妹のクレラがイムにそう問いかける。不安そうな顔で問いかけるクレラと、それを少し泣きそうな顔で見つめるジルとチルア。
そんな三人を安心させるようにイムは豪快に笑いながら返事をする。
「おう! 任せとけって! 皆も知ってるだろ? 兄ちゃんがすげぇ魔法を沢山使えるって! これからは美味い肉も瑞々しい野菜も、甘い果物だって食べれるようになるからな!」
「……わかった! イムにいならきっと大丈夫だって、信じてるからね!」
クレラは頭を振って切り替えた様にイムに笑いかける。そんな二人を見てジルとチルアも安心したように笑っていた。
そこにシスターがやってくる。
「イム、準備ができましたよ。これを持って行きなさい。探索者ギルドへの登録料とこの孤児院に昔から置かれていた護身用の短剣です。」
シスターがイムに手渡してきたのは硬貨がいくつか入った革袋と、少し古びた一振りの短剣であった。
「ありがとう、シスター! じゃあ、俺早速ギルドに行って登録してくるよ!」
「行ってらっしゃい、気を付けてねイムにい」
「イム、絶対に身の安全を第一に動くのですよ」
「兄ちゃん頑張って!」
「お兄ちゃん、帰ってきてね……!」
短剣を腰に差し、四人に見送られながら、イムは意気揚々と孤児院を飛び出した。
後ろから届く声に、心を温かくしながら。
都市ファーウェイの南門から歩いて五分ほどの位置に佇む巨大な建造物、それが『探索者ギルド』であった。
この世界においてダンジョンから産出される魔石や素材は文明の要であり、それらを持ち帰りつつダンジョンがスタンピードを起こさないために魔物を狩る探索者という職業は、なくてはならない存在だった。
そんな重要な職業、探索者を一つに管理し、統率しているもの。
それこそが探索者ギルド。そしてギルドの扉を開け、まさに今新たに探索者になろうとしている少年、イムがそこには居た。
ギルドの中に入ると、併設された酒場から、昼にも関わらず喧騒と酒の匂いが感じられ、少し顔を顰める。
だがこんなところで止まってはいられないと、顔に笑みを貼り付け、依頼書を吟味している探索者の横を通り抜け受付窓口へ向かっていった。
そこに座っていたのは、齢十八ほどの、長い髪を後ろで一括りにした整った顔立ちの受付嬢だった。
「新規の登録でしょうか?」
受付嬢―――マリナのイムを見る目は冷ややかであった。
イムの着ている服はつぎはぎだらけで古びており、髪も肌も普段三日に一度の頻度でしか風呂に入れないイムは一般市民と比べても薄汚れていた。
あからさまに『教養のない、みすぼらしい孤児』を見るようなその瞳に、イムは内心で鬱屈した気分になるが、普段過ごしていても似たような視線を浴びたことは幾度もあったため、気にしない様にと自身の気持ちを切り替え、努めて明るく振舞った。
「ああ! 探索者登録をしてほしい!」
「……登録料は銀貨十枚です」
「これが登録料だ! 確認してくれ!」
マリナの、お前にそんな金が払えるのか、と問うような視線にイムは笑顔で登録料を渡す。
「……確認いたしました。ではこちらの魔道具に血液を垂らしてください。ギルドカードを作成し、魔力を登録いたします」
「あぁ! 分かった!」
マリナが差し出した板状の魔道具に、カウンターの隅に置かれていた針を使って血液を垂らすイム。
ジワリと血液が魔道具にしみこんでいき、光を放ったと思った次の瞬間、一枚の鉄色のカードが排出される。
「ギルドカードの作成が完了しました。ギルドカードや探索者についての説明はいりますか?」
「よろしくお願いしたい!」
「……承知いたしました。まず探索者のランクは下から【鉄、銅、銀、金、白金、星銀、虹金】となります。最初は当然ですが最下級の鉄級からのスタートです。このカードにはすでにあなたの魔力が登録されております。偽造や他人が使用することは不可能ですのでご注意ください」
「ふむふむ」
「そして、探索者とはその名の通りダンジョンや郊外を探索する者です。もちろん、外やダンジョンには魔物が生息しているので命を失う危険もあります。……自身の身の丈に合っていない場所の探索は命を落とすことになるので線引きはしっかりとすることをお勧めします」
「そっか、心配してくれてありがとな!」
「……ギルドではクエストを発行しております。詳細はあちらの掲示板に張られている物を確認してもらえばわかりますが、恒常で置いてあるものもあります。ゴブリンの魔石納品などですね。とりあえず基礎的な説明は以上になります。何かご質問はございますか?」
「大丈夫! 丁寧な説明助かったよ! ありがとなお姉さん……っと、そういえばお姉さんの名前は?」
内心自身でも少し態度に出過ぎているか? と顧みたマリナだったが、相手が孤児であるということで、別にいいかと思いつつ、気持ちは乗らないものの聞かれたので名前だけ致し方なく答える。
「……マリナと申します」
「そっか! マリナさん色々ありがとう! 俺頑張るからこれからよろしくな!」
「……ご武運をお祈りします」
そんな、自身の対応に気が付いてるのかいないのか、毒気を抜かれてしまうぐらい笑顔で元気なイムに、マリナはそう返すのが精いっぱいであった。




