第10話:魔道具屋オーウェン
美味しいご飯を孤児院のみんなで食べた翌日からも、イムは精力的に働いた。必勝法の確立したゴブリンソードマンを狩り、その数が一日で三十体を安定して超え、一日の報酬が銀貨十二枚と銅貨六枚ほどで、毎日おなか一杯、栄養バランスの考えられた食事を取らせることができるようになっていた。
だが、その日々が続くと更に欲が出てくる。イムはゴブリンソードマンを大量に狩ることにより、自身の身体能力が格段に上昇しているのを感じていた。それは、更にダンジョンの奥にいる、ゴブリンアーチャーを狙えるんじゃないかと思わせるぐらいに。
ゴブリンアーチャーの魔石は、この前クエストボードを見た時には一つあたり銀貨一枚での納品と書いていた。今よりも稼げることは明白であった。そして今より稼いで貯金ができるようになれば、毎日気にせず風呂に入らせることもできるし、新しい服も買ってやれる。何より職によっては元手が必要な物もあるから、いずれクレラやジル、チルアが大人になって働こうとしたとき、好きな職に就けるようにしてやりたいという思いもイムにはある。
「よっしゃ、とりあえずクエストボードに納品依頼が乗ってるか見に行くか」
そうつぶやきながらクエストボードの前に行くと、いつぞやの酔っぱらいがイムに絡んできた。
「うぃ~、おいガキ~。最近ゴブリンソードマン殺しまくってるそうじゃねぇかぁ」
「あぁ? なんだよおっさん、酒場ならあっちだぞ」
「ゲハハハ、酒場の位置ぐれぇわかってんよぉ! なぁガキ、お前そろそろゴブリンアーチャーに挑戦しようとか思ってんじゃねぇのかぁ?」
まさに、今そう考えていたイムは、酔っぱらいのその言葉に反応する。
「……だったらなんだよ?」
「やめとけやめとけぇ! お前一人だろ? ボッチの探索者が行ったところでハチの巣にされるのが関の山だぁ!」
バカにするかのようなその発言に、少しイラつきつつもイムは極力表に出さない様に冷静に対応する。
「俺は魔法が使えるからな! ゴブリンアーチャーぐらいよゆーだぜ?」
「はっ、ガキィ、お前の貧弱な魔法でアーチャー一撃で殺せんのか? 殺せないんだったらやめときな、せめて、アーチャーを相手にするには一撃で遠距離から殺す手段が必要だぜ! 特に、一人で探索してるお前みたいなのは、アーチャーに苦戦してる間にゴブリンソードマンにぶち殺されちまうぜ!」
「……ゴブリンソードマンが一緒に出るのか?」
「あぁ!? なんだよそんなことも知らねぇのか! アーチャーは基本的にゴブリンソードマンとタッグを組んでるから、一体でいる奴なんていねぇよ!」
イムの知らなかった情報を、回りくどいとはいえ教えてくれた酔っぱらいにイムは感謝を示す。
「そうか! 教えてくれてありがとな!」
「けっ、せいぜい死なねぇこったな! さっ、呑みなおすぜぇ~!」
最後まで憎まれ口を叩きながら酔っぱらいのおっさんは酒場の方へと消えていく。イムは、そんな後ろ姿を見ながらも考える。自身の攻撃力のない奇術では、酔っぱらいの言う通りゴブリンアーチャーを倒すことができないと。
少し、悩んだ風に考えながらギルドを後にするイムを、心配そうに受付から見ている人物もいたことに、イムは気が付かない。
ギルドを出たイムは、遠距離での攻撃方法を確保するためにとある店に向かうことにした。
そこは孤児院からほど近い町のはずれにこっそりとやっている店で、看板には魔道具屋オーウェンの文字が書いてあった。
店の前に着いて扉を開けると、カランカラン、と扉に付けられたベルの音が鳴る。その音に気が付いてカウンターに座って町の情報誌を読んでいた店主が顔を上げる。
「なんだ、小僧じゃねぇか」
「へへっ、じぃちゃん久しぶりだな!」
店主のオーウェンはイムに気が付くと、その髪の生えていない頭部を擦りながらイムに話しかける。イムもなじみの店主に快活に笑いながら返事をすると、久しぶりに来たこの店をじっくりと見回す。
イムでも知っている回復のポーションが棚の上に並べられていたり、入り口近くの樽の中には使い方もよくわからないものが投げ入れられていたり、孤児院でも使用している給湯の魔道具なんかも置かれていた。小さいころは物珍しさからよく遊びに来ていたこの店に懐かしさを覚えつつもオーウェンに目当ての者が無いかを聞く。
「なぁじぃちゃん。魔物に効くような遠距離で攻撃できる物売ってない? 出来れば武器みたいに、何度でも使える奴!」
「おいおい、また久しぶりに来たと思ったらいきなりだな……ちょっと待ってろ」
オーウェンはイムの要望を聞き、悩んだ末に店の裏に入っていった。そして少しイムが店内を見て回っていると、重厚な箱を一つ、持ってきていた。
「うちにある武器はこれだな」
そう言いながら箱を開ける。中には装飾が施され、いかにも高級、といったような容貌の、いわゆる銃が収められていた。
「これは魔導銃だな、鉄級、銅級程度の魔物だったら、頭ぶち抜けば一撃で倒せるぐらいのシロモンだ」
「……じぃちゃん、確かに要望通りだけどさ……これ絶対高いやつだよな?」
そんな説明を聞き、まじまじと魔導銃を見たイムは引きつりながら笑い、オーウェンに問う。
「ふん、当たり前だろうが。金貨で十五枚だな。ここは魔道具屋だ、使い捨ての魔道具ならもっと安値で攻撃できんのもあるが、武器として成立してるのは総じてたけぇ。何よりこれは、扱いに癖がないから素人でもそこそこ使えるってもんだしな」
「……わりぃじぃちゃん。せっかく出してくれたけど買えそうにねぇわ! また今度何かあったら来るわ!」
そう言いつつ店を出ようとするイム、だが店主のオーウェンはそれを引き留める。
「まて、小僧」
「ん?」
「お前、最近探索者になったらしいな」
唐突なオーウェンの問いかけに、困惑しながらも答える。
「えっと、おう! もうゴブリンソードマンだって倒せるんだぜ!」
「……小僧、お前、何のために探索者になった」
胸を張って答えるイムに、オーウェンは更に問いを重ねた。
「んー……まぁ俺最強だからな! なんとなくだよ!」
「御託は良い、儂は、理由を聞いている」
ごまかそうとするイムを真剣な眼差しで正面から見つめるオーウェン、イムは、そんなオーウェンを見てあきらめるかのように語り始めた。
「……孤児院の暮らしがさ、ピンチになっちゃったんだよ。シスターも内職してくれてるけど、とてもじゃないがそれで賄えるような額じゃなかった。下の弟妹はまだ幼いし、クレラもジョブを授かる前の大事な時期だ。ならさ、お兄ちゃんである俺が何とかするしかないだろ?」
「……」
そう言いながらにへらっと笑ったイムに店主は無言で魔導銃の入った箱を投げ渡す。
「っと、おいじぃちゃん、これ……」
「使い方は簡単だ、魔力を込めて引き金を引く。それだけで込めた魔力に応じて銃先から魔力弾が放たれる。回数制限はないから好きに使え」
困惑するイムに捲し立てるように銃の説明を伝えるオーウェン。
「じぃちゃん、流石にこんなもの受け取れねぇよ!」
金貨十五枚、自身で稼ぐようになってからは、更に金の重みというものを身に染みて味わっているイムは、その額の物をただで受け取るなんてできないと伝える。
「小僧、家族を助けたいんだろ」
「え?」
「なら、使えるもんはなんでも使え。料金については気にすんじゃねぇ。どうしてもっていうなら、お前が探索者として大成したら何倍にもして返してくれりゃそれでいい」
未だ困惑の最中にいるイムに店主は、にやりと笑いながらそう言った。イムにも店主の気持ちが伝わり、胸の中にじんわりとした暖かい気持ちが広がるのを感じながら、今度は遠慮ではなく感謝の言葉を告げる。
「……ありがとう! じぃちゃん! これ、大事にする!」
そう言って笑顔で店を出たイムを、オーウェンもまた笑顔で見守っていた。




