第9話:神の目(スターリンク)の強制ジャック
総統府の地下深くにある、巨大な中央通信室。
無数のモニターが、無機質な青白い光を放っている。
◆ ◆ ◆
官邸テラスで、頼玄徳の重く確かな覚悟を聞いた。
歴史的大罪の泥を、彼は共に被ると宣言したのだ。
ならば、最高の結果で応えるのが影の軍師の役目だ。
夜明けとともに、習孟平は台湾を悪者にする映像を流す。
その前に、俺たちが先手を打って真実を世界にバラ撒く。
◆ ◆ ◆
「スターリンクの衛星網を奪うなど、絶対に不可能です!」
通信局の長官が、血相を変えて叫んだ。
「米国の最高機密だ! 物理的な防壁すらあるのに!」
「それに、世界の電波網を同時にハッキングするなど……」
技術者たちが、絶望的な顔で首を振っている。
彼らのいうことは、現代の常識では完璧に正しい。
だが、俺の脳内にあるのは2046年の『記録』だ。
「……常識は捨てろ。俺がすべて繋げてやる」
首筋の生体インプラントに、静かに思念をおくる。
青白い熱が走り、イーロン・リンクが起動した。
「V4世代の演算力で、すべての暗号を量子解体する」
俺が呟いた瞬間。
室内の全サーバーが、悲鳴のような駆動音を上げた。
漏洩電磁波のノイズが、青白い火花となって明滅する。
「なっ……物理遮断が突破されただと!?」
「20年かけた最強の暗号が、たった0.003秒で……!」
「TEMPEST攻撃か!? 電源線のノイズから侵入している!」
「嘘だろ!? 世界中の衛星群が、一瞬で乗っ取られたぞ!」
技術者たちの悲鳴に似た絶叫が、通信室にひびき渡る。
「これは神の仕業か、それとも最悪の犯罪か……っ!」
圧倒的な情報の非対称性が、エキスパートの常識を粉砕したのだ。
「……空にある『神の目』は、すべて俺が掌握した」
中央モニターに、地球を覆う無数の衛星が青白く点灯する。
世界のすべての画面を、俺の指先が支配した瞬間だ。
だが同時に、じわりと首筋が焼け焦げるような激痛を持つ。
地球規模のジャックによる、脳が焼き切れるような代償。
視界が歪み、俺は機材のラックに手をついて崩れ落ちそうになる。
『無茶をするな、キッド。少しだけリソースを肩代わりしよう』
脳内に、透明な羽扇をあおぐイーロンの声がひびいた。
青白い熱がスッと引き、狂っていたサーバーの音が安定する。
『おや。裏回線から、僕のコードを覗き見している小悪魔がいる』
視界の端で、柴犬のアイコンが一瞬だけポップアップした。
『未来の防壁を、直感だけでこじ開けようとしている』
『……なかなか見込みのある女の子だ』
『そういえば君も先日、散々からかわれていたよね』
イーロンの言葉に、俺はパーカーを着た少女を思い浮かべる。
小飛。まさかあの生意気な少女が、未来技術にまで干渉するとは。
そのとき、小梅がそっと背中を支えた。
「無茶ばかりして。……倒れるなら、私の方に倒れなさい」
不器用な気遣いとともに、確かな体温が伝わってくる。
最愛の彼女の破滅まで、あと994日。
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