第7話:瀋陽爆破テロの看破と、工作部隊の潜入
台北の夜風が、湿ったアスファルトを撫でる。
薄暗い廃工場の前に、俺と小梅は立っていた。
◆ ◆ ◆
瀋陽のテロ発生から、半日が過ぎた。
李家食堂での休息が、焼き切れた脳を冷やしてくれた。
だが、習孟平の本当の狙いはここからだ。
テロの混乱に乗じ、工作部隊がすでに台湾制圧への配置を着々と整えている。
内部からの崩壊を防ぐため、俺はみずから敵のアジトへ赴いた。
◆ ◆ ◆
『各地の変電所から、未承認のアクセスを検出!』
通信機越しに、作戦室のオペレーターの悲痛な声がひびく。
『もう手遅れだ。台湾全土の電力が落ちるぞ……っ』
歴戦の指揮官たちが、絶望とパニックに顔を歪めているだろう。
俺は冷ややかに、通信機へむかって呟いた。
「騒ぐな。とっくに罠は張ってある」
首筋のインプラントに、静かに思念をおくる。
青白い熱が走り、イーロン・リンクが起動した。
「五、四、三、二、一――」
俺のカウントダウンで、廃工場のシャッターが一斉にロックされる。
『なっ……! 変電所のシステムが、すべて正常値に回復しました!』
「連中の通信網ごと、俺が支配した」
『台北各地の別拠点でも、奇襲部隊の一斉制圧が完了しました!』
あのリストで内通者を秘密裏に拘禁し、信頼できる精鋭だけで編成させた。
その結果が、この完璧な同時制圧作戦だ。
残るはこの廃工場に潜む、本隊のネズミたちだけ。
パニックに陥った工作員たちが、裏口を蹴破ってなだれ出てくる。
「さて。ネズミたちが逃げ出してきたわよ」
隣に立つ小梅が、9mmカスタム拳銃『梅花』を構えた。
「証拠と尋問用に、指揮官は生かしておけよ」
「了解。口が利ける程度には残しておくわ」
彼女の顔には、俺と視覚を共有するリンク・グラスが光る。
「2秒後の未来が、丸見えなのよね」
暗闇の中、小梅が涼しい顔で次々と引き金を引く。
グラスが予測座標へ弾道を補正し、敵の急所を撃ち抜く。
「ば、化け物! 遮蔽物越しにどうやって……っ!」
敵の絶叫がひびき、次々と死体が床に転がっていく。
「ひるむな! 強化防弾衣を盾にして距離を詰めろ!」
残党がアサルトライフルを乱射し、物量で押し寄せてきた。
小梅は息一つ乱さず、超硬合金ナイフ『寒椿』を抜き放つ。
漆黒のパンツスーツが、暗闇を舞うように躍動した。
ギンッ!
火花が散り、強固な防弾衣ごと敵の肉体が切り裂かれる。
「嘘だろ!? 最新の装甲が紙切れみたいに……っ!」
鮮血が舞い、戦意を喪失した敵が後ずさる。
俺はイーロン・リンクを通じ、すべての逃亡経路を電子ロックした。
袋の鼠となった部隊を、小梅が冷酷に刈り取っていく。
『たった二人で、百人近い工作部隊を壊滅させただと……?』
通信の向こうで、息を呑む音が聞こえた。
圧倒的な情報の非対称性が、現代の常識を完全に破壊したのだ。
じわりと、首筋が焼け焦げるような熱を持つ。
視界が揺らぎ、俺は無意識に壁へ手をついた。
その瞬間、硝煙の匂いをまとった小梅がそっと腕を支えた。
「……馬鹿。一人で全部抱え込んで、死ぬ気?」
呆れたような小声に、不器用な気遣いが滲んでいる。
細い指先にぐっと力が込められた。
張り詰めた戦場に、彼女の体温だけが温かい。
最愛の彼女の破滅まで、あと996日。
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