第4話:作戦コード:赤龍(王との対峙)
総統府の最深部、重厚なマホガニーの執務室。
静寂の中、壁の古時計だけがときを刻んでいる。
◆ ◆ ◆
国家を動かすには、絶対的な『信用』がいる。
明日、習孟平が仕掛ける自作自演の爆破テロ。
台湾侵攻の口実となる『河北の乱』を防ぐため。
俺はこの国のトップに、未来の真実を叩きつける。
先ほど奪った裏金リストは、そのための入場券だ。
◆ ◆ ◆
「……このリストのデータ、本物と確認しました」
側近の男が、震える声で報告する。
執務机の奥で、台湾総統の頼玄徳が目を細めた。
「どこの機関の者だ。何を望んでここへ来た」
重く静かな声が、執務室の空気を押しつぶす。
「台湾の防衛。そして、明日起こる悲劇の阻止だ」
俺はまっすぐに、総統の目を見つめ返した。
「明日午後三時。北京は瀋陽で自作自演のテロを起こす」
側近が鼻で笑い、俺を小馬鹿にするように睨んだ。
「でたらめをいうな。そんな兆候は一切ない!」
「兆候ならある。俺の脳内に、すべて記録されている」
俺は首筋のインプラントに静かに思念をおくる。
青白い熱が走り、メインモニターが強制起動した。
「なっ……物理遮断されたシステムが!?」
「イーロン・リンクだ。あんたらの防壁は紙切れと同じだ」
画面に、北京軍の極秘の部隊配置図が映し出される。
側近が顔面を蒼白にさせ、後ずさった。
「馬鹿な……。最高機密のネットワークすら……っ」
俺は頼総統に向き直り、冷酷な事実を告げる。
「これは予測じゃない。俺が生き残ってきた『記録』だ」
「放置すれば明日、内部の裏切りで台湾は戦わずして陥落する」
「シーレーンを絶たれた日本も干上がり、自由なき属国へと成り果てるんだ」
「俺は16年間、その地獄の歴史を泥水とともにすすってきた!」
「だから習孟平が絶望の歴史を書く前に、俺がペンを折る」
「俺がリストの売国奴どもを掃除する。あんたの手は汚さない」
「すべての血と泥は、歴史に存在しない俺が被る」
総統は息を呑み、静かに俺を見つめた。
冷静な振る舞いでは隠しきれない、あふれ出る熱。
国家の闇を一人で背負おうとする、異常な狂気。
「……君は、そのために一人で泥を被るというのか」
俺は表情一つ変えず、静かに頷いた。
「君の言葉、信じよう。私も共に泥を被る覚悟だ」
「総統!? こんな素性のわからない少年を信じるなど……っ!」
「黙りなさい。彼には、国を預けるに足る覚悟がある」
背後に立つ小梅の、息を呑む気配が肌に伝わった。
総統はまっすぐに俺を見据え、威厳を宿した重い声で告げた。
「だが、言葉だけでは真偽を測ることはできない」
「明日、私にその未来を証明してみせろ」
「小梅。彼に最大限の協力をしつつ、監視せよ」
「……はっ!」
静かな敬礼とともに、小梅が俺の隣に立つ。
じわりと、首筋のインプラントが限界の熱を持った。
視界が揺らぐ。強烈な排熱による未来技術の代償。
だが、これで歴史を変える盤面は整った。
最愛の彼女の破滅まで、あと999日。
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