第2話:19歳の死神、台湾に立つ
15話まで、1時間おきに連続投稿します。
2027年の台湾。台北の裏路地。
むせ返るような雨の匂いが、周囲を包み込んでいた。
◆ ◆ ◆
過去へ回帰し、見知らぬ公園で目覚めてから数時間後。
俺は脳内の『イーロン・リンク』を使い、罠を張った。
北京の工作員から『親中派の裏金リスト』を奪い取ったのだ。
彼女を救うには、個人の武力ではなく国家の力が必要だ。
台湾のトップに謁見するための、最高の手土産として。
そしてわざと痕跡を残し、リストを奪い返しに来るネズミたちを誘い込んだ。
◆ ◆ ◆
「通信は完全に遮断した。諦めろ」
スーツの男が、薄ら笑いで拳銃を向けてくる。
「ガキが。ナメたことしやがって」
「……ナメてるのは、そっちだ」
俺は首筋のインプラントに、静かに思念をおくる。
青白い熱が、皮膚を焼き切るように走った。
「イーロン・リンク、起動。愛用の『戦術装甲データ』で俺の服を上書きしろ」
『――オーケー。ついでに奴らの口座残高もゼロにしておいたよ』
『おまけに、裏金リストを全世界に配信しよっか?』
「な、なんだ!? スマホのデータが……っ!」
男が画面を見て、血相を変えた。
通信機越しに、北京の技術者の悲鳴がひびく。
『あり得ません! TEMPEST攻撃でも不可能です!』
『物理遮断のシステムが、たった3秒で……っ!』
「ふざけやがって!」
男が絶叫し、俺の眉間へむけて発砲した。
弾丸が当たる0.1秒前。
俺の着ていたシャツが這い上がり、顔面ごと漆黒の戦術装甲へと硬質化した。
火花が散り、銃弾が足元にポロリと転がる。
「なっ……! ば、化け物か……っ!」
男は完全に心が折れ、泥水の中にへたりこんだ。
「位相シフト装甲だ。お前のオモチャじゃ、少し熱いだけだ」
じわりと、脳が焼き切れるような激痛が走る。
命を削る未来技術の代償。
だが俺は表情一つ変えず、涼しい顔で男を見下ろした。
味わった地獄に比べれば、この痛みなどそよ風に等しい。
錯乱した男が、震える手で再び銃へ手を伸ばした。
その直後。
男が拾い上げようとした銃が、乾いた銃声とともに弾け飛んだ。
「ひいっ!?」
俺の背後から放たれた、寸分の狂いもない精密な一撃。
振り返るより早く、後頭部に硬く冷たい金属が押し当てられた。
焼け焦げそうな脳髄を凍らせる、銃口の圧倒的な冷たさと殺気。
「動かないで。少しでも妙な真似をすれば撃つわ」
振り返ると、高いポニーテールの女が立っていた。
漆黒のスリムフィット・パンツスーツ。
手には、9mmカスタム拳銃『梅花』が握られている。
だが、俺の顔を見た瞬間、氷のような瞳がかすかに見開かれた。
「……総統の極秘回線をハッキングしたのが、こんな少年?」
台湾総統直属の特別警護官、李小梅。
のちに俺の最高の共犯者となる女との、最悪な初遭遇だ。
最愛の彼女の破滅まで、あと999日。
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