第18話:【閑話】共犯者との近接格闘(スパーリング)と密着する鼓動(および、シャワー後のYシャツと無防備な寝顔)
台北の地下訓練室。重い防音扉に囲まれた空間。
汗と、マットのゴムの匂いが立ち込めている。
◆ ◆ ◆
数日前、俺は脳の限界を超えて倒れ込んだ。
日本へ潜入する前に、基礎体力を底上げする必要がある。
未来の技術は、強烈な排熱と負荷をともなうからだ。
だから俺は、監視役の小梅とスパーリングを行っていた。
◆ ◆ ◆
「……甘いわよ! 動きが単調になってる!」
鋭い呼気とともに、小梅の回し蹴りが飛んでくる。
俺は腕でガードするが、重い衝撃に体勢が崩れる。
彼女は容赦なく踏み込み、俺の胸ぐらを掴んで足を掛けた。
視界が反転し、俺は背中からマットに叩きつけられる。
「っ……が……!」
息が詰まる俺の上に、小梅が馬乗りになって腕を極めてきた。
「……これで終わり。私の勝ちね、軍師サマ」
上から覗き込む彼女の額には、美しい汗が光っている。
だが、彼女の豊満な胸が俺の顔のすぐ近くにあった。
シャンプーの甘い香りと、熱を帯びた汗の匂い。
密着した肌から、激しく脈打つ彼女の鼓動が伝わってくる。
「……おい。この体勢は、色々と教育に悪いぞ」
俺が視線を逸らすと、彼女は自分の体勢に気づき……。
顔を真っ赤にして、バネのように飛び退いた。
「なっ……! あんた、どこ見てるのよ変態!」
怒鳴りながら、彼女は冷たいタオルを俺の顔に投げつけた。
◆ ◆ ◆
数十分後。俺たちは総統府の仮眠室に戻っていた。
俺が先にシャワーを浴び、ソファで休息を取っていると。
「……見ないでよ。着替え、母さんに頼んでる最中だから」
バスルームから出てきた小梅を見て、俺は息を呑んだ。
彼女が着ていたのは、俺の予備の白いYシャツだけだった。
濡れた黒髪から、鎖骨へと水滴が滑り落ちる。
だぼだぼのシャツの裾から、しなやかで長い脚が覗いていた。
冷徹なSPの顔とは程遠い、あまりにも無防備な姿。
健康な肉体が、危険な警鐘を激しく鳴らす。
「俺は悪くない。……少しは警戒心を持て」
俺が顔を背けると、小梅は赤い顔のまま隣にドカッと座った。
「あんた相手に、警戒なんて……とっくに……」
言い訳めいた声が、だんだんと小さくなっていく。
連日の激務による疲労が、限界を超えていたのだ。
こつん、と。俺の右肩に軽い衝撃が走った。
見ると、小梅が俺の肩に頭を乗せて、すやすやと眠っていた。
シャワー上がりの甘い香りが、鼻腔をくすぐる。
俺は小さくため息をつき、そっと毛布をかけた。
最愛の彼女の破滅まで、あと984日。
【読者のみなさまへ】
「面白い」「続きが気になる!」と思ってくださったら、
ページ下部にある【ブックマーク登録】や、【評価システム(★★★★★)】で応援していただけると、執筆の非常に大きな励みになります!
何卒よろしくお願いいたします。
◆【作品をより深く楽しむための補足ページ】
本編の戦況マップ、地政学・ミリタリーの裏設定などはX(旧Twitter)にて随時公開・更新しています!
ぜひこちらもチェックしてみてください。
▼作者X(旧Twitter)アカウント
https://x.com/shinsannov




