第17話:暗号資産全消去と、限界を迎えた心身
台北の地下作戦室。
バニースーツ騒動の甘い空気は消え、冷たい緊張が走る。
◆ ◆ ◆
日本へ発つ前に、台湾の親中派が隠し持つ軍資金を消し去る。
北京の侵攻を裏で支える、莫大な暗号資産。
現代の『兵糧攻め』を完遂し、台湾の背中を完全に安全にする。
◆ ◆ ◆
「我々の資金は、分散型のブロックチェーン上にある」
高級ラウンジで、黒幕の男が葉巻をくゆらせて笑う。
「スーパーコンピュータでも、ハッキングは数学的に不可能だ」
俺は作戦室のモニター越しに、男の慢心を冷たく見下ろした。
「……現代の数学ならな。やれ、小悪魔」
『了解! 量子解体ロジック、フル稼働!』
小飛の指先が舞うと、自律型AI『D.O.G.E.』が吠えた。
未来の技術が、現代最強の暗号鍵をわずか0.003秒で粉砕する。
「なっ……馬鹿な! 数千億の資産が、すべてゼロに!?」
「防壁が砂のように……っ! 国防予算に強制送金されている!」
男の絶望の悲鳴が、通信回線に心地よくひびく。
『とどめだよ! 隠し口座の履歴、全世界に拡散完了!』
男の裏取引の全記録が、巨大ビジョンとSNSを埋め尽くす。
弾丸を一発も使わず、黒幕の人生は完全に終わった。
◆ ◆ ◆
「……これで、台湾国内の憂いはすべて絶たれた」
俺が通信を切って立ち上がろうとした、その瞬間。
視界が激しく歪み、強烈な吐き気が込み上げてきた。
「がっ……、はぁっ、はぁ……っ!」
小飛の分散コードを使っても、防ぎきれない負荷があった。
国家規模の暗号を同時に解き、歴史を強制的に捻じ曲げる代償。
精神の酷使に、未完成な肉体が限界を迎えたのだ。
糸が切れたように崩れ落ちる俺の体を、小梅が必死に抱きとめた。
「志明! しっかりしなさい! 息をして……っ!」
「お姉ちゃん! おじさんのバイタルが急低下してる!」
遠のく意識の中、小梅が冷徹なSPの仮面をかなぐり捨てる。
俺の背中を強くさすり、その身を震わせていた。
「……大丈夫だ。ただの、ガス欠だよ」
強がる俺の頬に、彼女の温かい涙がポツリと落ちた。
限界を迎えた心身を繋ぎ止める、不器用で確かな戦友の体温。
「……日本への切符、手配できたわ。絶対に死なせないから」
最愛の彼女の破滅まで、あと985日。
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