第15話:天才少女の修行と、恐るべき個人指導
台北の高級ホテル。最上階のVIPルーム。
厚い絨毯に、葉巻の重い煙が沈んでいる。
◆ ◆ ◆
日本への潜入前に、背中のネズミをすべて掃除する。
北京に寝返り、甘い汁を吸おうとする売国奴たちだ。
だが今回、俺は一切の泥と熱を被らない。
未来の神と天才少女が、情報の処刑人を務めるからだ。
◆ ◆ ◆
「ガキが。俺の口座はスイス銀行の極秘枠だ」
ソファでふんぞり返る大物政治家が、鼻で笑う。
「総統の犬ごときが、この防壁を抜けるものか」
俺は薄く笑い、首筋のインプラントに触れた。
「俺は手を下さない。……やれ、小悪魔」
『了解だよ! D.O.G.E.、お仕事の時間!』
脳内に小飛の楽しげな声がひびく。
『いいかい小飛。情報の処刑は速度が命だ』
裏回線に、イーロンの余裕のある声が割り込んだ。
『量子解体の熱を、D.O.G.E.に分散させるんだ』
『わかってるよ、師匠! サイバー羽扇、フル稼働!』
未来の神による、恐ろしい個人指導。
瞬く間に、男のスマホが狂ったように鳴り始めた。
「なっ……ば、馬鹿な! 残高がすべてゼロに!?」
男は震える足で窓へすがりつき、絶望の悲鳴を上げた。
眼下の巨大ビジョンに、男の裏取引の全記録が映し出される。
『世界中のSNSに拡散完了! 社会的抹殺だよ!』
弾丸を一発も使わず、男の政治生命は完全に終わった。
「……掃除は完了だ。二人ともいい腕だったぞ」
俺の首筋に熱はないが、通信の向こうで荒い息遣いが聞こえた。
『えへへ……。ちょっと、がんばりすぎ、たかも……』
◆ ◆ ◆
急いで作戦室へ戻ると、小飛がコンソールに突っ伏していた。
「……おい。大丈夫か」
俺が額に手を当てると、火のように熱かった。
限界を超える演算に、小さな脳が悲鳴を上げたのだ。
「ちょっと小飛! 急に倒れるなんて……っ!」
血相を変えた小梅が、氷水とタオルを抱えて飛び込んでくる。
「お姉ちゃん……志郎おじさん……えへへ……」
うわ言のように笑う小飛の頭を、俺はそっと撫でた。
『少し無理をさせすぎたね。残りの掃除は僕がやろう』
イーロンの粋な計らいで、残る売国奴たちも瞬時に抹殺された。
涼しい顔の俺と、知恵熱を出して倒れた天才少女。
張り詰めた戦場に、おかしな逆転の看病が始まった。
◆ ◆ ◆
数日後。光の帯が流れる、無機質なサイバー空間。
隣には、知恵熱から完全復活した小悪魔が立っていた。
残党の地下要塞を潰しつつ、さらなる特訓を行う。
「キッドの排熱をどう逃がすか。それが今日の課題だ」
透明な羽扇をあおぎ、イーロンが小飛に微笑みかける。
「君が無傷で、彼とリスクを完全に分散するコードを教えよう」
「わかったよ、師匠! ドージ、熱分散アルゴリズム展開!」
現実では、残党たちが強固な防壁の中で余裕ぶっていた。
「この要塞なら、あの幽霊軍師も絶対に手を出せないはずだ」
「……甘いな。空の扉はすでに開いているぞ」
俺が呟くと同時に、小飛のサイバー羽扇がフル稼働する。
「排熱バイパス接続! 防壁ごと量子解体しちゃえ!」
無邪気な声とともに、難攻不落の防壁が砂のように崩れ去った。
「なっ……メインシステムがダウン!? 物理遮断だぞ!?」
「ひいっ! アジトの座標が警察に一斉送信されている!?」
男たちの絶望の悲鳴が、サイバー空間に心地よくひびく。
俺の首筋に走るはずの激痛が、スッと冷たい風に変わった。
小飛の組んだコードが、命を削るリスクを完全に消し去ったのだ。
「……よくやった。これなら俺も、少しは長生きできそうだ」
「えへへ! これで志郎おじさんも無敵だね!」
『今回のような軟弱な防壁なら有効だが』
イーロンが羽扇をあおぎ、小悪魔の弟子に微笑みかけた。
『下手をすれば、必要以上の負荷がかかることもある』
『自分の好きなものをイメージしてコードを組むといい』
『精神的な負荷も減る。僕のこの羽扇が典型だね』
『君ならすぐに最高のアレンジができるはずだ』
『いろいろとアレンジして、僕を楽しませてくれ』
「任せてよ師匠! 最高に可愛いコード書いちゃうから!」
現実に戻りVRギアを外すと、冷たいタオルを持った小梅がいた。
「……また、二人して無茶したんじゃないでしょうね」
呆れながらも俺の汗を拭う、不器用で確かな戦友の体温。
最愛の彼女の破滅まで、あと987日。
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