表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

第14話:【閑話】19歳の肉体改造と、小飛の小悪魔な差し入れ

台北の地下訓練室。


汗と防音材のゴムの匂い、重い金属音がひびいている。


◆ ◆ ◆


宣戦布告から大軍が動くまでの、わずかな猶予。

未来技術の強烈な反動に耐えるには、基礎体力がいる。


精神は38歳でも、この肉体は19歳の未完成なままだ。

日本への潜入前に、少しでも限界値を引き上げる必要があった。


◆ ◆ ◆


「……ふうっ」

重いバーベルをラックに戻し、荒い息を吐き出す。

全身の筋肉が、ちぎれるように熱を持っていた。


「お疲れさま、志郎おじさん」


仰向けになった俺の視界に、だぼだぼのパーカーが飛び込む。

小飛がベンチの頭側から、逆さまで顔を覗き込んでいる。


「……勝手に入るな。生体認証のロックがかかってるぞ」


「天才ハッカーに開けられないドアなんてないもん」


彼女は悪びれず、スポーツドリンクを差し出してきた。

「はい、差し入れ。ちゃんと冷やしておいたよ」


「……ありがたく、もらっておく」

俺は身を起こし、冷たい液体を喉に流し込んだ。


乾いた体に、染み渡るような冷たさが広がる。


「それにしても、すごい肉体だね」

小飛がニヤニヤしながら、俺の汗ばんだ腹筋を指差す。


「中身はおじさんなのに、無駄にバキバキじゃん」


「……うるさい。チートの負荷に耐えるためだ」


「ふーん。ねえ、ちょっと触ってみていい?」


「は?」


有無をいわせず、小飛の細い指先が俺の腹に触れた。

冷やされたペットボトルを持っていた、氷のような冷たさ。


火照った筋肉が、予想外の温度差にピクリと跳ねる。

「……っ、冷たいぞ」


「あはは! 変な声。お姉ちゃんにチクっちゃおっと」


「……あまり調子に乗るなよ、小悪魔」


小飛は俺の言葉を無視して、楽しそうに笑っている。

「ねえ、次は日本に行くんでしょ? わたしも連れてってよ、志郎おじさん」


「遊びじゃない。……いや待て。なぜ俺の本名を知っている」


仮眠室の騒ぎではスルーしたが、確かにそう呼ばれていた。

世界から完全に抹消されたはずの、天野志郎という名前を。


俺が鋭く睨みつけると、小飛はニヤリと小悪魔のように笑った。

「昨日、防壁で遊んでくれた『羽扇のおじさん』いるでしょ?」


「……まさか」


「うん。弟子入りしちゃった。裏回線のキーももらったよ」


俺は思わず、冷えたペットボトルを持ったまま頭を抱えた。


『素晴らしい才能だよ、キッド。少し知恵を授けておいた』

脳内で、透明な羽扇をあおぐ男が楽しげに笑う。


未来の天才が、現代の小悪魔にチートを与える。

世界で最も恐ろしい師弟関係が、勝手に結ばれていたのだ。


「だから、日本でも裏からバッチリサポートしてあげる」


「……お手柔らかに頼むよ」

俺が呆れて息を吐くと、小飛は満足そうに走り去った。


誰もいなくなった訓練室で、俺は再びバーベルを握り直す。


あの自由奔放な才能と、屈託のない平和な笑顔。

それを絶対に、独裁者の監視社会に潰させはしない。


過去の亡霊だった俺に、未来を守るための確かな熱が宿っていた。


最愛の彼女の破滅まで、あと990日。

【読者のみなさまへ】

「面白い」「続きが気になる!」と思ってくださったら、

ページ下部にある【ブックマーク登録】や、【評価システム(★★★★★)】で応援していただけると、執筆の非常に大きな励みになります!

何卒よろしくお願いいたします。

◆【作品をより深く楽しむための補足ページ】

本編の戦況マップ、地政学・ミリタリーの裏設定などはX(旧Twitter)にて随時公開・更新しています!

ぜひこちらもチェックしてみてください。

▼作者X(旧Twitter)アカウント

https://x.com/shinsannov

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ