静かな決意
龍馬はベッド周辺を歩き回っており、なるは特命状を何度も読み返している。そんな中、俺は出席表を開いて、ある人物の名前を確認した。
「……後架立木」
小さく呟くと、二人はその出席表を覗いた。
「三年の先輩の名前じゃないですか。なぜこれを?」
「あっ、こいつって、孝一を殴ったあのゴリラか?」
「やっぱりか。俺が気絶する寸前に、たつきって聞こえたからな。他にもたつきという名前の人は三年に一人いたが、こいつは出席率が低い。あんな横暴で下品な人だ、この人と断定するのが普通だろう」
「……もしかして、この人がスパイの候補の人なんですか?」
全く違う、別件だ。とため息混じりに言い、龍馬にあの後どうなったかと尋ねる。
「もちろん大騒ぎで、先生がすぐさま駆けつけてな。孝一は保健室に連れて行ってほしい、そしてたつきは職員室に来い、ってな」
「龍馬から見て、どう思う?」
「どう?って」
「俺はこの先さらにひろみと接触していくと思う。その際に、あいつはノイズになる可能性が高い。お前から見て、あいつはまた仕掛けてくると思うか?」
心理コースを選択した龍馬なら、人の感情部分には少し乏しい俺よりも正確な推測ができるはずだ。
龍馬はベッドの縁に座り、コンクリートの床を見て。
「仕掛けてくるよ。多分、お前とひろみが話す限りはな」
「根拠は?」
「恋は盲目って言うだろ?良くも悪くも、人の原動力には十分すぎるエネルギーだ。ていうか、こんなことは心理学学ばなくても予想のつくことだろ」
それを聞いたなるは一瞬スカートの裾を握りしめた。
「そのたつきっていう先輩に、孝一先輩は対抗しにいくんですか?」
「あぁ。パッと考えられる方法は、実力差で見せしめるかひろみから直接否定されるか。たつきの土俵に合わせると、力勝負か」
「孝一、あいつは相当鍛えられた体だったぞ。言っちゃ悪いが、お前の素の力じゃ返り討ちにされるだけだ」
背丈も体格も、俺の一回り大きく、そのパンチ力は俺の鼻が証明している。普通に考えて、現実的な案ではない。
「なら、ひろみ先輩?に頼る指針でいく形なんですか?」
「いや、それは火に水というよりは、油を注ぐようなものだ。裏で孝一がなにか言いふらしているな、とか考えてさらに孝一に意識するようになる」
つまりどうするか。自分の拳を握りしめる。
「待て孝一。ほんとにやるのか?あまりにも大胆なやり方というか、お前らしくないぞ」
「またそれか?考えはある。龍馬の話を聞いて、その考えは確信になった」
テストまで残り五日。時間はない。この五日でたつきという男を黙らせる決意をした。




