主席管理官の日常、勘違いは続く
神務庁の日差しが差し込む執務室。
俺は無数に積み上がった(各地からの催促の)稟議書を文字通り「未読スルー」しながら、窓の外に広がる王都の平和な青空を見上げていた。
『──警告。未処理のリクエスト数が閾値を超えています。定期的なメンテナンス(システム的対応)を推奨します』
監査AIが定期的に小言を言ってくるが、俺は耳をほじって聞き流す。
「分かってるって。……まあ、あいつら(地方の教団)も、今はまだ俺から貰ったオモチャ(権能)の扱いに慣れてないだけで、そのうち『自分たちの魔力なんだ』って自覚して、俺に頼るのを忘れるようになるさ」
それが、システム管理の極意。
『ユーザーがシステムの存在(俺)を忘れて、当たり前のように使えるようになること』こそが、最高の環境維持なのだ。
「アッシュ様!」
ゼノンが満面の笑みで部屋に入ってくる。
「王都の神権派の市民たちが、アッシュ神の【世界分散完了(大出張の完了)記念祭】を開催しております! 神の御前で、ぜひ盛大なパレードを……!」
「断る! 俺は疲れてるんだ。あと、絶対に『神の力を見せてください』とか言わせるなよ、俺の権限はもうスカスカなんだからな!」
俺の拒絶も虚しく、「なんと謙虚な神のお言葉!」と、ゼノンは勝手に手打ちの太鼓を鳴らして窓の外へパレード参加を呼びかけに行ってしまった。
「まったく……相変わらず騒がしい連中だ」
俺が苦笑して紅茶のカップを手に取ると。
「アッシュ卿、お疲れのようだな。私の膝を貸そう(真顔)」
「いえいえ、ここは私の絶対的な膝枕(冷却効果付き)でアッシュ様の熱った御頭を……!」
いつの間にか両脇にスタンバイしていたセレスティアとエレナが、俺に熾烈な膝枕の押し売り戦争を開始した。
「重い! 甲冑姿のセレスティアの膝枕硬い! エレナ、冷たすぎるからやめろ!」
「ふふっ……神の悲鳴すら愛おしいですね」
「うむ、アッシュ卿のこの無防備な御姿を守るのは、やはり我らしかいないと実感するな」
ドタバタと騒がしい、俺の周りにだけ集まる人間たちの特大の愛と勘違い。
だが、それが不思議と……悪くない。
俺は前世で、システム室の隅で冷たいPCモニターだけを見つめ、たった一人で世界を支えることに疲れ果てていた。
しかし今は違う。
俺の権力(チート能力)は減り、仕事は「バグ消し」から「人間たちの社内政治の調整役」という面倒なポジションに移り変わったが。
それでも、俺にはもう『エラーメッセージ』ではなく、温かい血の通った『人間たち(ポンコツ信者の群れ)』が隣にいるのだ。
「……まあ、たまには神様を続けるのも、悪くないかもな」
澄み渡る王都の空を見上げて、俺は誰にも聞こえない声でそっと呟いた。
【System:世界環境ログ、正常。】
【ユーザー『ASH』のアカウント状態:『主席管理官』──アクティブ】
神を辞めたかった男は、システム監査の危機を乗り越え、世界中に権限をばら撒くことで『完全な左遷』を見事に達成した。
だが、最強で最高の狂信者たちと、少しだけ平和になったこの世界で。俺の『勘違いされ続ける神様ライフ(第二部)』は、これからも騒がしく続いていくのである。




