世界中の上申書、中央管理が詰む
『……件名:西砂漠ノードより、アッシュ神への上申書……』
『内容:神の御力(自律防護網)の恩恵、深く感謝いたします。しかし、お隣の南大陸ノードと比べ、我が砂漠エリアの『魔力供給パケット(降雨の奇跡)』が少々通信制限を受けているように見受けられます。つきましては、我が砂漠教団にあと 5% だけ神の権限を割き、魔素帯域を優先していただけないでしょうか!』
「…………は?」
俺はそのシステムログ(各地の教団からの陳情書)を読んで、絶句した。
『件名:東群島ノードより、神へのお願い』
『内容:我らがアッシュ神! 西の砂漠の連中が「帯域を広げろ」などと騒いでいるようですが、神の聖なる海を守る我らこそ、最も厚い権限(処理リソース)を優先されるべきです! どうか我らの海島防衛軍に、特別ボーナス・デリート権限(局地兵器)の実装をお願いいたします!』
「なんだこれッ!?」
俺は頭を抱えて机に突っ伏した。
「俺が全国にシステム権限(地方自治)をばら撒いたせいで、今度は『ウチの部署(国)に予算(魔力リソース)をもっと回せ』っていう、地方拠点の醜いパイ(権力)の奪い合い(社内政治)が始まってるじゃねえか!!」
『肯定』
監査AIが無機質に頷く。
『あなたから権限を間接的に預けられた現地生命体たちは、魔力の安定により強大な発言力を獲得しました。今彼らは、「いかに中央のアッシュ神から、多くのリソース投資を引き出す(寵愛を受ける)か」で、各ノード間で激しい政治的牽制(リクエスト攻撃)を行っています』
「ふざけんな! 俺はただ有給を取りたかっただけなのに! なんで今度は『全国の支店長からの稟議書の承認業務(板挟み)』なんていう、無意味な中間管理職マターが始まってるんだよ!!」
バグとの戦いが終わったと思ったら、今度は人間同士の欲と権力による「社内政治の調整役」になるなんて。
これが、チーフ・デバッガー(分散システムの統括)に課せられた、真の労働(地獄)の始まりだったのだ。
【System:新規リクエスト(祈りのパケット)が 10,000件 受信されました。承認(YES)しますか?】
「全件リジェクト(放置)だッ!! 勝手にやってろ!!」
俺は発狂しながら虚空の【NO】ボタンを連打した。
「アッシュ卿! いかがなされた!」
俺の悲鳴を聞きつけて、再びセレスティアとエレナが飛び込んでくる。
「こ、これは……なんという膨大な数の『祈り(不満)』の束! 図々しい各国の人間どもめ、神が分け与えた力に飽き足らず、より多くの寵愛を催促するなどと……!」
「アッシュ様、よろしければ私が各国のノードへ出向き、その図々しい口を永遠の氷で塞いでまいりましょうか?(満面の笑顔で)」
「だからお前らはすぐに武力による粛清(物理的なデリート)に走るな!!」
俺は慌ててエレナの杖を押さえ込んだ。
「お前たちが各都市を攻撃すれば、今度は『神が地方を弾圧した』ってことで、また世界大戦(システム暴走)が引き起こされるんだぞ! ……いいか、ここは放置だ。俺は神だからこそ、彼らには『完全に平等』に接して、これ以上の権限の増減は【一切行わない】という毅然とした無神論的スタンスを貫く!」
「「おおおおおっ……!!」」
二人の瞳が、三度キラキラと輝いた。
「なんという公平無私……! 神は個別の情(稟議)に流されることなく、世界の天秤を誰よりも厳格に管理されるのですね!」
「ええ……! 全ての者を等しく愛し、等しく突き放す。これぞ完璧なる神の玉座……!」
ただ稟議を読むのが面倒くさい(仕事したくない)だけだが、彼女たちの俺への「信仰心(勘違いパラメータ)」は、もはや留まるところを知らなかった。




