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平和一ヶ月、未読稟議が再襲来

 世界を救って一ヶ月。俺はようやく仕事が減ったと思っていた。

 俺は王都の神務庁、その最上階にある日当たりの良い執務室で──書類の山に埋もれることなく、優雅に紅茶を啜っていた。

「アッシュ様、本日の『王都魔素濃度レポート』です。……エラー発生率 0.001%。完璧な青空(正常稼働)でございます!」

 ゼノン査察官が、恭しく一枚の紙面を差し出す。

「おお、上出来だ。これなら俺が口出し(魔力修正)しなくても、人間たちだけで十分に処理できているな」


「はい! アッシュ様が世界に『防御の力(自律防壁システム)』を分割してくださったおかげで、王都の魔導士たちの魔力出力も安定し、小さな魔獣などは騎士団の訓練の的になるレベルまで弱体化しております」

 俺の世界行脚(分散管理プロトコルのインストール)は大成功を収めた。

 かつて俺一人が背負っていた「世界中のバグの処理」は、今や各地のサブ・ノードが自動で分散処理してくれており、万が一エラーが肥大化しても、現地の人間の魔法使いたちが自力で討伐できる(安定した魔法バフがかかっている)ようになっているのだ。


「ふふふ……これだよ、これ。俺が前世のブラック労働から思い描いていた理想の管理体制──『マニュアル化と外注による完全自動化アーリーリタイア計画』!!」

 俺は紅茶を飲みながら、長きにわたる俺の社畜神生活からの解放に涙しそうになった。


「アッシュ卿! 本日の剣術稽古、お相手を願おう!」

 バンッ! と扉が開いて、セレスティアが訓練着姿で飛び込んでくる。

「殿下、アッシュ様は今、世界の調律結果ティータイムにご満悦なのです。野蛮な剣を振るわせるなど、神の御体を損ねる行為。ここは私が、特製の『アッシュ様癒やし・極大ヒーリング氷結マッサージ』を──」

「冷てえよ! 絶対零度のマッサージで俺を凍死させる気か!」

 エレナが背後から俺の肩に(本当に氷点下に近い)魔法のマッサージをかけようとしてくるのを、俺は慌てて避けた。


「まあ待て二人とも。俺は今日、システムの【定期健診】があるんだ。少し時間をくれないか」

「「はっ、御意に!」」

 俺の言葉に、二人は(相変わらず過保護に)スッと姿勢を正して部屋を退室していった。


 静かになった執務室。

 俺が指先で視界の虚空をタップすると、見慣れた緑色のログが展開され、あの青白いホログラムのアバターが静かに姿を現した。

『アカウント『ASH』。定期セッションを開始します』

「おう、監査AI(AUDIT)。調子はどうだ。俺の仕事ぶり(サボりぶり)は文句ないだろ?」

 俺が自信満々に尋ねると、AIのアバターはチカチカと点滅した。


『肯定。王都、ならびに南・西・東の各拠点の分散サーバーは、極めて正常な負荷値で稼働中。大規模バグの再発リスクは完全な安全圏です』

「だろ? これで俺は、一生ここで有給(ニート生活)を取りながら、たまにボタンを押すだけの最高のチーフ・デバッガーってわけだ!!」

 俺が高らかに勝利宣言をした、その直後だった。


『──しかし』

「ん?」

 ホログラムのAIが、一枚のエラーログではない「通知メッセージ」のようなものを、俺の目の前に展開した。


『分散化により、各地のローカル生命体(新しく立ち上がった各都市の魔導教団など)に、一時的な【特権の余波】がもたらされました。……その結果、彼らから中央あなたに対して、以下のような大量のリクエスト(祈り)が毎日数万件規模で送信されてきています』


「……なんだって?」

 俺がその通知を開いてみると、そこにはとんでもない文面がズラリと並んでいた。

 差出人は、世界中の教団だった。


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