装甲崩壊まで二十秒、Deleteは十五秒待ち
ズガァァァァァァァンッ!!!
世界から集束した莫大な魔力バフを受けたセレスティアとエレナが、黒い大喰らい(バグ)の巨塊へと激突した。
「不浄なるエラーどもめ! 我が騎士団が帰還した今、これ以上の破壊は許さぬ!!」
セレスティアの振る舞う魔剣が、これまでの白銀の光とは異なる『虹色のシステム・オーラ』を放ち、大喰らいの外殻(黒い空間ノイズ)を「物理的」に切り裂いていく。
「凍てつく絶対零度の檻……いいえ、今の私には世界中の熱と海が宿っている!! アッシュ様の御力よ、具現化せよ!!『極大・創星結界』!!」
エレナが杖を天に掲げると、バグの周囲数百メートルが、灼熱と氷と雷の相剋する『絶対的破壊・再生空間』へと包み込まれた。
「おおおおっ!! 見よ、王女殿下とエレナ様を! 神の御力をその身に宿し、魔神の如き強さだ!!」
「我らも続け! 神と騎士団のために!!」
ゼノン率いる二千人の狂信騎士団も要塞からパラシュート(風魔法)で降下し、王都の魔導師たちと合流して一斉に援護射撃を開始する。
王都を飲み込もうとしていた大バグが、人間たちの圧倒的な「物理と魔法の嵐(過剰な演算の暴力)」によって、ギシャァァァッ! と悲鳴のようなノイズを上げてその質量を削り取られていく。
『──警告。対象インフラ『World_Eater』の装甲データが急速に崩壊しています。内部のマスター・コアが露出するまで……残り[ 20秒 ]』
監査AI(AUDIT)のホログラムが、俺の隣でシステム状況を実況する。
「よしっ! いけるぞ!」
俺は要塞の甲板の縁に立ち、強風に煽られながら視界のシステムUIに意識を集中した。
二人のチート級の打撃によって、バグの真っ黒に蠢く巨体を覆っていた「空間削除の装甲」が一気に剥がれ落ちていく。その中心、真っ黒にドクドクと脈打つ『ソフトボール大の赤いコア』が、ついに外気(物理空間)へと剥き出しの姿を曝した。
「そこだっ! 弾け飛べぇぇぇぇっ!!」
セレスティアの渾身の大上段の斬り下ろしが、赤いコア目掛けて振り下ろされた。
ガァァァァンッ!!
だが、剣の刃はコアの直前で『見えざる壁(システム次元の絶対防壁)』に弾き返され、セレスティアが「くっ!?」と後方に吹き飛ばされた。
『解析。対象のマスター・コアは、あなたたち(ローカル生命体)の物理魔力では干渉できない別次元(システム領域)に秘匿されています』
「魔法じゃ届かないってことか! なら……俺の仕事だ!!」
俺は視界の【Delete】コマンドを、赤く脈打つコアへとピンポイントでロックオンした。
装甲を剥がされたコア本体のサイズ(容量)は、わずか数キロバイト。
これなら、今の俺のポンコツ権限(残り20%)でも、余裕で一括削除の容量に収まる!
「Target:World_Eater_Core(大喰らいの核)!!」
「Action:Delete(強制終了)!!」
【System:コマンド受領。対象の削除プロセスを開始します】
【残り遅延時間:[ 15秒 ]】
「くそっ! ラグはまだ15秒もあるのか!!」
俺が悲鳴を上げたその時。
コアが危険を察知したかのように狂乱し、剥き出しの本体から何千本もの「黒いレーザー(即死の削除光線)」を王都全域に向けて無差別に乱射し始めた。
これが街や人間に直撃すれば、何もかもが「存在しなかったこと」にされて消し飛ぶ!
「アッシュ様!!」
空を舞っていたエレナが、俺の窮地と街の危機を見て、自らの杖を投げ捨て、全身の魔力を解放して『広域の防御壁(身代わり)』となろうと飛び出してしまった。
「やめろエレナ! それに当たればお前自身がデリートされるぞ!!」
俺の絶叫は、轟音にかき消される。
黒い光線が、エレナへ、王宮へ、騎士たちへ、無慈悲に迫る。
システムの猶予は、あと[ 10秒 ]。
俺のポンコツな権限では、もはや誰も助けられないのか──。




