世界中のノードを王都へ接続せよ
「そうだ……。俺はもう、独りで戦う『孤高の神(管理人)』じゃない」
俺はバッと顔を上げ、ホログラムの監査AI(AUDIT)に向かって叫んだ。
「俺は世界中に権限(サーバー処理能力)の 80% を分散させた! 王都だけで処理できないなら、世界中からネットワーク越しに『俺の権限』を掻き集めればいい!!」
『……!』
無機質なホログラムが、驚いたように光子の瞬きを見せた。
『提案を分析。……可能(Possible)です。世界中の分散ノードから【物理世界の魔力】をネットワーク通信で王都へ逆流させ、一時的な防壁演算リソースとして叩きつける。それならば、対象の増殖を[ 到着まで ]遅延させることができます』
「よし! やるぞ!!」
俺はシステムのコンソールに文字通り覆い被さり、猛烈な勢いでコマンドを叩き始めた。
「Target:南大陸・西砂漠・東群島の各魔力ノード! Action:全魔素出力を『王都への防壁プログラム』へと一点集中(Overclock)!!」
【System:世界基盤ネットワークへの緊急干渉を受理。各サブ・ノードへ負荷の高いリソース要求を送信します】
一方、その頃──絶望に沈む王都の広場では。
旧文明の汚泥のような真っ黒な大喰らい(エラー)が、王宮の防壁すらも「ポリゴンを剝がすように」削り取り、逃げ惑う人間たちに迫っていた。
「もはやこれまでか……! アッシュ神もこの王都にはおられぬしな……」
残された騎士たちや神権派の者たちが、絶望して膝をついた、その時だった。
カッ!!
王都の南の空が、あり得ないほどの真っ赤な光(南大陸の灼熱の魔力)に染まり。
西の空が、黄金の光(砂漠の雷の魔力)に包まれ。
東の空が、群青の光(海島の水の魔力)に瞬き。
──世界中の方角から、信じられない規模の『魔力の極光』が、何百キロという距離を越えて、王都の空の中心へと集束してきたのである!
「なん……だ、あれは!?」
集束した三色の極光は、王都の大地に降り注ぐと、大喰らい(バグ)の周囲を取り囲むように【超絶重厚な属性防壁(三色六角結界)】を展開した。
空間を喰っていた真っ黒なノイズが結界に衝突し、ギチギチと音を立てて侵攻を阻まれる。
『おおおおおっ!!』
王都の群衆が、空を見上げて歓喜の叫びを上げた。
「神だ! アッシュ神が、遠く離れた異郷の空から、我々王都の民を守るために『世界中の奇跡』を繋ぎ合わせて防壁を降らせてくださったのだ!!」
「神は、決して我らを見捨ててなどおられなかった!!」
……実際には俺の魔法ではなく「各地の大自然の魔力(サーバー出力)をシステム経由でブン投げただけ」だが、絶望していた王都の人間たちには、これ以上ない最高級の『神の愛による奇跡の遠隔セーブ』に他ならなかった。
【System:広域防壁の維持により、システムリソースが限界を突破しています。対象の侵攻遅延時間……[ 約 3 時間 ]】
俺のコンソールに、ギリギリの時間(猶予)が表示される。
「3時間……。これでなんとか、飛竜要塞を王都までダッシュ(フルブースト)させられるな……ッ!」
俺は玉の汗を拭いながら、ゼノンとヒロインたちを振り返った。
「王都の皆が待ってる! 大至急、全速力で帰還するぞ!!」
「おおおおおおっ!!」
アッシュ要塞の全推進機関が火を吹き、神を乗せた巨大な船は、空を切り裂いて王都への帰還ルートを爆走し始めた。
「アッシュ卿……」
その背中を見つめるセレスティアの瞳には、かつてないほどの熱い感情が渦巻いていた。自らは遠く離れ、自らの力は削り取られながらも。世界の果てから魔力を束ねて王都を護る、その壮大なスケールの献身。
「これこそが……『世界を統べる神の愛』……! アッシュ卿、あなたに仕えることができて、私は……私たちは本当に幸せだ!」
俺たちの王都帰還戦(デバッグ最終フェーズ)がいよいよ始まろうとしていた。




