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World_Eater漏出、残り四十五分

「緊急事態だ!! 全速で要塞を王都まで引き返させろ!!」

 俺の悲鳴に近い怒号が、神聖要塞アークの執務室から廊下へと響き渡った。

「アッ、アッシュ様!? いかがなされましたか!」

 扉を蹴破らんばかりの勢いで、ゼノンとヒロイン二人が飛び込んでくる。

「王都が……王都の地下で、ヤバい自律エラープログラムが実体化して暴走を始めてる! 俺が王都のシステム警備(防壁権限)を空にした隙を突かれたんだ!」

「な、なにッ!?」

 ゼノンが血相を変える。

「王都の地下には、先日エレナ殿が展開した『自律型・広域微細氷結結界マクロ』があるはずです! 並の魔獣など近づくことすら叶わぬはず……!」

「相手は並の魔力生物バグじゃない! 世界そのものを丸ごと貪り食う、旧文明の『空間削除ウイルス(ワールド・イーター)』だ!」


 俺の視界の中で、王都から送られてくるモニタリング・ホログラムは絶望的な状況を映し出していた。

 学園地下の絶対封鎖区画から溢れ出した『真っ黒なノイズの塊』のような巨大なスライム状の何かが、通りや建物を次々と「真っ黒な空間ゼロ・データ」へと変換しながら増殖している。

 エレナの自立防衛マクロも、魔道士たちの魔法攻撃も、当たった瞬間から『存在しなかったこと』としてデータごと食われて消滅していく。奴は魔法に対して完全な無敵アンチ・マジック・プロパティを誇っていた。


「くそっ、俺が『唯一神』の時は、王都の中央サーバーに俺の特権防壁が常に100%張られていたから、あんな隔離バグが表に出ることはなかったんだ……!」

 俺の分散管理作業(システムの移行)が、結果的に大バグの封印を解いてしまった。

『──予測。対象『World_Eater』の増殖による王都の完全消滅まで、残り[ 45分 ]』

 監査AIが冷静に地獄のカウントダウンを告げる。


「どうするんだよAI! 俺の手元にはもう、世界中に権限をバラまいちまったせいで『容量 20% しか消せないポンコツ強制終了ボタン』しか残ってないぞ! あれを一括デリートなんて絶対無理だ!」

『……肯定。現在のあなたの権限レベルでは、対象の削除は不可能です。これは、私のシステムの分散予測を上回る『想定外の残留エラー』の結合によるインシデントです』

「ふざけんな! お前の指示通りに分散化したせいでこうなったんだぞ!!」


 俺が監査AIにキレている横で、セレスティアとエレナが剣と杖を力強く握りしめていた。

「アッシュ卿。我らは今、王都から数百キロも離れた東の海の上だ。要塞の魔力推進を最大にしても、到着まで数時間はかかる」

「殿下のおっしゃる通りです。……アッシュ様、ここは私どもだけでも『神聖転移魔法(決死のワープ)』で王都へと先行し、あの不浄なる大魔獣の侵攻を食い止めてまいります!」

「ダメだっ!!」

 俺は叫んだ。

「お前たちの魔法は絶対に通じない! 奴は『データ(魔法)そのものを食べるバグ』だ! 王都の魔導師たちと同じように、お前たちの存在ごと消滅させられてしまうぞ!」


 俺の手元には、もう奇跡チートは残っていない。飛竜要塞の速度では間に合わない。

 王都の人間たち──俺を祭り上げ、慕ってくれた信徒も、かつて命を狙ってきた連中も、みんなあの黒いバグに飲み込まれて消去デリートされてしまう。


「……何か……何か手はないのかッ!!」

 俺は頭を抱え、システムUIを睨みつけながら必死に思考をフル回転させた。


 その時。

 俺の視界の端で、【南大陸第一ノード】【西砂漠第二ノード】【東群島第三ノード】……俺がこれまで設置してきた『世界中のサブ拠点』の接続アイコンが、静かに、だが力強く緑色の光を明滅させていた。

 このネットワークを繋げられなければ、王都は間に合わない。


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