成功しすぎた分散管理、王都異常発生
分散管理ツアーは、成功しすぎていた。
「Target:Sand_Worm_Bug(砂漠のエラー巨蟲)! Action:Delete(消去)!!」
「……コマンド受領まで10秒。その間、頼むぞセレスティア!」
「お任せを、アッシュ卿! 神の裁き(ラグ)の時間を稼ぎ切るなど容易い御用!!」
西の砂漠ノードでは。
俺の【10秒遅延Delete】というポンコツ性能を逆手にとり、「セレスティアが一騎打ちで敵の動きを10秒間完全にロックし、俺のDeleteが時間差で自動発動してトドメを刺す」という、無敵のタイムトラップ戦法が確立されていた。
砂時計の中樞サーバーに権限をインストールし、砂漠の大地に俺の力(権限)を切り離す。
「アッシュ様、海島ノードの中枢遺跡は、あの超巨大な渦巻き(エラー海流)の底ですわ。私が海を真っ二つに割り、道をお作りいたします……! 神の御力は、世界へ分かつために温存なさってください!」
「おお、助かるエレナ……!」
東の群島ノードでは。
俺の弱体化(権限が残り30%まで低下)を「神の尊い自己犠牲による疲労」と完全に勘違いしているエレナが、俺に指一本動かす負担をかけさせまいと、自らの膨大な魔力で海を割り、超巨大なエラー海産物を一人で氷漬けにして粉砕していた。
俺はただ、ヒロインが開いた安全な道を歩いて、海底の神殿でエンターキーを押す(インストールする)だけでよかった。
各拠点を回るたびに、視界のUIログに現れる俺の『保有権限リスト』はどんどん寂しくなっていく。
【王都直接管理権限[ 残り 20% ]】
【個人実行コマンドの広域指定:不可】
【遅延時間:15秒。……エラー発生確率:上昇中】
もはや俺は、前世で使っていたオンボロのフリーズ寸前PC(Windows 98)のような性能にまで成り下がっていた。
だが、その代わりに。
『世界分散率 80%。全ノード間の魔力パケットネットワーク(環境維持基盤)が正常にリンクしました』
王都を出発した時には不安定だった空の色が、完璧な透き通るような青空(バグのない最適化されたテクスチャ)になり。
大地には豊かな魔素が安定供給され、同行している二千人の騎士団が、「な、なんという充実した魔力……! 神が世界を調律されたことで、我らの剣が、魔法が、恐ろしいほどに研ぎ澄まされていく!」と歓喜の声を上げるレベルで、世界全体が完璧に整いつつあった。
「……ふう。これで主要な三拠点のサブ・ネットワーク構築は完了だな」
俺は飛竜要塞の執務室で、監査AIのホログラムに向かってコーヒーカップを掲げた。
「お前の言った通りだ。俺一人で全部のバグを消して回らなくても、各都市のシステムが自動で最適化してくれてる。俺の仕事(権限)は減ったし、人間たちはバフ(安定)の恩恵を受けて自力で戦えるようになった。完璧な理想の分散管理システム(Win-Win関係)の完成だろ?」
俺が胸を張ると、監査AIはチカチカと点滅し、無機質に答えた。
『肯定。権限移行プロトコルは極めて順調です。アカウント『ASH』の、自らの特権を手放す躊躇のなさ(管理者としての執着の薄さ)は、システム移行に多大な貢献を果たしました』
「ははっ、俺はサビ残も休日出勤も嫌いだからな。玉座なんてくれてやるよ」
順風満帆。全てが丸く収まる。
俺は久しぶりに、残業のない平穏な日々(アーリーリタイア)を確信して、ニヤニヤと笑った。
──だが。
俺が権限を 80% も世界に切り離し、王都の中央サーバーにおける『管理者の力(防壁)』が極限まで手薄になった、まさにそのシステム移行の【空白のタイミング(脆弱性)】を。
世界の深奥にこびりついていた『最悪の残留思念(大バグ)』が、見逃すはずがなかったのである。
ピィィィィィィィィィンッ!!
俺の視界のUI画面が、突如として真っ赤に染まった。
いや、ただの赤ではない。画面全体がバグって崩れたような、『黒と赤のモザイクノイズ』が埋め尽くす、見たこともない最上級の非常警告表示だった。
【──FATAL ERROR──】
【対象エリア:『王都』】
【旧文明・最終殲滅プログラム『World_Eater(大喰らい)』の実体化プロセスを確認しました】
【王都の権限防護レベルが規定値を下回ったため、地下封鎖区画の『最下層キャッシュ』が突破されました】
「……は!?」
俺はコーヒーカップを取り落とした。
王都で、俺が防壁権限を持っていかないと抑えきれないレベルの『ヤバい隔離プログラム』が漏れ出したっていうのか!?
次の通知は、王都壊滅の予測だった。




