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玉座を降り、世界出張へ出航

 監査AIとの『分散管理ディストリビュートプロトコル』実施の合意から数週間。

 王都は、クーデターの傷跡を癒やしつつ、新たな「神の試練(大出張)」へと向けて熱狂的な活気を取り戻していた。

「クーデターの首謀者たち(神権派および反神派の上層部)は、全員が『王都の魔力インフラ無給清掃員(ボランティア10年)』として処罰いたしました」

 神務庁の新たな長官特室にて、ゼノン査察官が書類を読み上げる。

「彼らは神の直接の罰を免れたことに感涙し、一族の誇りをかけて下水道の魔素残渣をピカピカに磨き上げております。……まったく、神の慈悲と労働の尊さを同時に教え込むとは、このゼノン、アッシュ様の御業には恐れ入るばかりです!」


 いや、単に俺が「処刑デリートコマンド」の承認通すのが面倒だったのと、システムの容量節約のために人力でお掃除してもらったほうが効率いいからなんだけど。

 俺は「ああ、それでいい。彼らにも更生の余地はある」と鷹揚に頷いておく。


「して、アッシュ様。世界各国へ向けての『大分散プロジェクト・親善遠征』の準備が全て整いましてございます!」

 アルベルト長官が誇らしげに胸を張る。

「神務庁の予算の極限を投入し、王立魔法軍の巡洋艦船体をベースに開発した『超大型神輿機動要塞アッシュ・アーク』が完成いたしました!! 騎士団二千名と、最高級の料理人五十名、さらにアッシュ様専用の極上温泉機能付きスウィートルームを完備した、全長百メートルの空飛ぶ神殿です!!」

「どこからその金出たんだよ王国の予算は大丈夫なのか!?」

 俺は叫んだ。ただの地方出張が、国庫を揺るがすレベルの巨大プロジェクトになってしまっている。


「ご心配には及びません、アッシュ卿!」

 セレスティア王女が、ピカピカに磨き上げられたミスリル銀の鎧を身にまとって登場する。

「今やアッシュ卿の威光は周辺諸国すべてに轟いており、『ただ神が御通過されるだけでも構わぬ!』と、莫大な貢物(協賛金)が日々送られてきているのだ。我ら王都の騎士団は、その先頭に立ち、あなたの剣として世界を平定しに行く喜びに打ち震えている!」


「……セレスティア殿下、あなたが出しゃばるのはそこまでですわ。アッシュ様の御身を不浄バグから守るための第一の盾は、この私なのですから」

 エレナが、氷のように研ぎ澄まされた杖を携えて一歩前に出る。

「私は昨日、アッシュ様が不在の間も王都の環境を維持できる『自律型・広域微細氷結結界マクロ』を完成させました。これで王都の防衛は万全。私も何の憂いもなく、アッシュ様と永遠の世界の旅路へとお供できます!」

 彼女たちの異常なまでの愛(物理と魔法)は、今や世界中(別のサブノード)にまで撒き散らされようとしているらしい。


【System:ユーザー『ASH』。第一分散拠点(南大陸ノード)への移動経路を構築しました】

【System:これより、あなたを中心とした広域権限の分割作業が進行します。これ以降、あなたの単独でのコマンド出力(一括Deleteなど)の成功率は低下します】


 視界のUIログが、俺に『ダウングレード(左遷)』の完全な開始を告げている。

 これから俺が行く先々には、当然のように旧文明が残したやべえ『防衛バグ』や、システム権限をもとにした『巨大魔獣』がうようよしているはずだ。

 そして俺はもう、それらを「一撃で消し去る」無敵のチート神ではない。

 頼れるのは、俺が設定するセコい「パラメータの書き換え(Rewrite)」と──。


「ふふっ……神が世界を巡り、力を分け与える旅。これ以上のロマンがありましょうか。私は死ぬ気で御身をお護りいたしますよ、アッシュ様」

「さあ行こうぞ、神が歩まんとする新たな荒れ野へ! 我が剣が切り開いてみせよう!」


 ──この、俺を【世界最強の全能神】だと本気で勘違いし続けている、最高にポンコツで狂気的なヒロインたち(物理特化&魔法特化)だけだ。


「……ああ、行くか。俺たちの、本当の『大仕事』にな」

 俺は胃薬の小瓶をポケットに押し込み、空飛ぶ巨大要塞へと足を踏み入れた。

 単一神(チート無双マスター)から、主席管理官(現場のデバッグ責任者)へのクラスチェンジ。

 だが、周囲の俺への『神としての勘違い』はますます激化し、世界を巻き込んでスケールアップしていく。


 ──第二部『神を辞めたい男の、大・分散管理(勘違い世界ツアー)』の幕が、今ここに上がるのだった。


(第三章──神権クーデターと監査の真相・完)

 次の目的地は南大陸。俺の胃薬は、出航前にもう半分消えていた。


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