空飛ぶ神輿、二千騎士団で大移動
出航当日、空には空飛ぶ要塞が浮いていた。
王都の空を、全長百メートルを超える巨大な飛竜船──いや、もはや空飛ぶ城跡とも呼べる『超大型神輿機動要塞』が悠然と飛行していた。
王立魔法軍が総力を挙げて建造したこの馬鹿げた浮遊要塞には、俺を護衛(監禁・警備)するための二千人の狂信騎士団と、豪華な調度品、そして俺専用の温泉付きスウィートルームまで完備されている。
「アッシュ様ぁぁっ! いってらっしゃいませぇぇっ!!」
「神の威光を、愚かなる辺境の土塊どもにも知らしめてやりましょうぞ!!」
地上の広場からは、十年のボランティア清掃を命じられた元クーデター首謀者たちが、感動の涙を流しながらデッキブラシを振って俺を見送っていた。
「……はあ」
俺は要塞の最上階、重厚な絨毯が敷き詰められた『神の執務室』の窓辺で深い溜め息を吐いた。
俺の目の前のデスクには、文字通りシステム上の『書類の山(エラーログの大群)』がホログラムとして堆く積まれている。
『アカウント『ASH』。第一分散拠点(南大陸ノード)への移動中も、権限移行シミュレーションのプロトコル入力作業を継続してください』
俺の隣には、無機質な監査AI『AUDIT』のアバターがぷかぷかと浮かんで、俺のデスクワークを監視していた。
「分かってるよ。要するに、王都のシステムの『コピー版』を現地サーバーにダウンロードさせるための、パッケージ作成作業だろ。……ああもう、スクリプト組むの面倒くさいな」
神の奇跡(魔法的無双)などと持て囃されているが、俺が今やっているのは、完全に「社内SEの全国拠点オープンに向けたキッティング作業(初期設定)」である。
しかも、俺が権限のパッケージを切り離す(作成する)たびに、俺自身の『俺個人が使える全能の奇跡の力』の出力が、少しずつ弱くなっていくのだ。
【System:権限バンドル作成完了。あなたの王都直接管理権限[ 残り 70% ]】
「アッシュ卿! お茶をお持ちした!」
執務室のドアが勢いよく開き、王女セレスティアが豪華なティーセットを運んできた。普段はメイドがやる仕事だが、「神の御前に仕えるのは私こそ相応しい」と、彼女が率先してやっているらしい。
「おお……凄まじい神気(魔力の発光)だ。アッシュ卿が虚空に向かって指を動かされるたび、世界中に新たな『概念の種』がばら蒔かれているのがわかる……!」
セレスティアが感極まった口調で言う。いや、ただのタイピング作業だよ。
「アッシュ様。下層甲板にて、騎士団どもが『もっと神の威光を隣国に威圧(物理的)として示すべきだ』と気炎を上げておりますが、いかがいたしましょう?」
続いてエレナが入室してきて、恐ろしい報告をしてきた。
「バカ言え! やめさせろ! 俺たちはただの『システム管理の出張』に行くだけだ。戦争を引き起こすな!」
「御意。……フフッ、神はやはり平和を愛しておられるのですね。無知な隣民などを虫ケラのように焼き払うことは容易いというのに、あえてそれをなさらない……」
エレナがうっとりとした目で俺を見つめる。
違う、俺の今の権限メーター(低下中)じゃ、広域魔法陣なんて一括Deleteできないから争いを避けたいだけだ。
かくして、『神聖なる権限移譲(システム設定のおつかい)』の旅は、超巨大要塞と二千人の狂信騎士団という、世界一目立ってタチの悪い神輿状態のまま、最初の目的地である南大陸へと向かって進んでいくのだった。
そして到着前に、俺の個人権限はさらに削られる。




