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左遷三日目、分散管理の書類地獄

 左遷が決まって三日、俺は書類の山に埋まっていた。

 王都の神務庁・特別執務室にて、俺は机の上に山のように積まれた『書類エラーレポート』と死闘を繰り広げていた。

「アッシュ様、西方都市群における魔力網の接続テスト、第三フェーズまで完了いたしました!」

 ゼノン査察官が、新たな羊皮紙の束をデドンッと俺の机に乗せる。

「……ああ、ご苦労。そっちのノードの通信帯域を5%だけ引き上げて、メインフレームのキャッシュをクリアしておいてくれ。……いや、魔石の純度を上げて定期的に放流しろって現場に伝えて」


 かつて俺の仕事は、「王都で発生するバグ(魔法)に対して、緑色のポップアップの【YES(強制終了)】ボタンをポチッと押すだけ」の、直感的で脳死なワンクリック・デバッガーだった。

 だが今は違う。

分散管理ディストリビュートプロトコル』への移行テスト。

 それはつまり、俺がいままで王都のシステム(中央サーバー)に全振りして行っていた管理権限を、『世界中の他の都市のシステム(サブノード)』へと少しずつ分割して委譲し、俺が何もしなくても世界が勝手に自動修復(自律稼働)するよう、超緻密な設定作業(ソースコードの切り貼り)を行うという……地獄のような事務仕事デスクワークの始まりであった。


「アッシュ卿。お疲れのようだな。私が肩を揉もう」

「いえ、ここは私が。神の御心を癒やすのは第一の盾たる私の義務ですわ」

 左右からセレスティアとエレナが俺の肩を取り合いながら揉みくちゃにしてくるが、今の俺の心には何の癒やしにもならない。肩こりより胃痛と眼精疲労がヒドいのだ。


【System:西方ノードへの権限分割パッケージ、送信完了】

【System:あなた(ASH)が保持する王都の直接管理権限が[ 30% ]縮小されました】


 視界のシステムログが、俺の権限(チート能力)が着実に削り取られ、他の地域へ【分配】されていることを示している。

 そう、俺はシステムから「お前一人じゃ負荷がかかりすぎるから、権限を手放してみんなで管理しろ」と言われ、文字通りの『権限移譲(リストラ&左遷準備)』をさせられているのだ。


 だが、この俺の涙ぐましい深夜残業(システム設定)が、王都の人間たちには全く別の意味で受け取られていた。


「……ゼノン。最近、王都の『神権派』連中の動きがおかしくないか?」

 俺が窓の外、王宮の広場に集まる無数の白装束の集団を見下ろしながら尋ねると、ゼノンは重々しく頷いた。

「はい。アッシュ様がこうして執務室に籠り、直接の『奇跡(魔法の消去など)』をほとんど行われなくなったことで、彼らは猛烈な危機感を抱いております」


「危機感? なんで?」

「彼らはこう主張しているのです。『神が、我々を見捨てて天上(遠い世界)へ帰ろうとしておられるのではないか』と」

「……」

 俺がシステム権限を他の都市へ『分散』させているせいで、王都での俺の影響力(システムの干渉力)が物理的に薄くなっている。それを敏感に感じ取った狂信者たちが、「アッシュ様が王都からいなくなる」と勝手に恐怖し始めているらしい。


「このままでは、過激な神権派が『アッシュ様を物理的に王宮の玉座へと縛り付ける(幽閉する)』という、狂気の暴挙クーデターに出かねません」

 ゼノンの言葉に、俺は抱えていた頭をさらに深く机に沈めた。


 なんでだ。俺はただ、ブラックな一人現場から「チーム開発(分散管理)」に移行して、有給を取りたいだけなのに。どうして俺が権限を手放そうとするだけで、国が真っ二つに割れるようなクーデター騒ぎになるんだ……!

 監査AIの言う通り、人間ども(エラー要因)の群れは、俺の想像を遥かに超えて全く制御が効かなくなっていた。

 その夜、王宮の外では早くも神権派の過激な叫びが上がり始める。


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