最後の鍵は学園地下、狂信者が封鎖
海上での大立ち回りから王都に帰還した俺たちを待っていたのは、歓喜の凱旋パレード……ではなく、顔面を蒼白にさせた王立魔法学園の学園長と、完全武装した神務庁の役人たちだった。
「おお、アッシュ神! そして護衛の皆様! お戻りを一日千秋の思いでお待ちしておりました!」
アルベルト魔法省長官が、神務庁の執務室で震えながら俺を出迎える。
「どうした。俺がいない間に、またどこかの噴水や街灯の大規模エラーでも起きたのか?」
「いえ、エラー(魔素の乱れ)は神の御留守の間もなく順調に発生しておりますが、それは我ら神務庁が手動で復旧作業(尻拭い)を行っております。……問題は、人間のほうでして」
アルベルトが机に広げたのは、王立魔法学園の地下見取り図だった。
「なんと、アッシュ様を狂信的に崇める『神権派』の生徒を中心とした過激な一派が、学園地下の『絶対封鎖区画』を不法占拠してしまったのです!」
「……はあ?」
俺はあっけに取られた。神権派の生徒? それってつまり、エレナが会長を務める生徒会のメンバーや、俺の「デリート」を見て感化された下級生たちじゃないか。
「奴らの主張はこうです。『アッシュ神が空に浮かべた四つの鍵のうち、最後の一つは学園地下の聖域にある。我々人間が自らの手でこれを神に献上し、穢れ多き反神派から完全に神を守らねばならない』と。彼らは封鎖区画の扉に強力な魔力バリケードを張り、誰も中に入れようとしません」
……最悪だ。
反神派(俺を殺そうとするテロリスト)の妨害も厄介だが、神権派(俺を絶対的に崇拝する狂信者)の『善意と過剰な忠誠心による暴走』のほうが、精神的な疲労度が桁違いにデカい。
「しかも悪いことに」
横からゼノンが胃を押さえながら補足する。
「彼らが立て篭もった封鎖区画の奥深くは……かつて旧文明が『何らかの極秘実験』を行っていたという伝承が残る禁忌のエリアです。生徒たちがあの場所の魔力を誤って刺激すれば、王都そのものが吹っ飛びかねません」
俺は視界のUIログに目を走らせた。
【System:Warning。対象『学園・封鎖区画』にて、未知の論理エラーが増殖中】
船の上で見た警告そのままだ。生徒たちが無自覚に防衛システム(トラップ)を作動させてしまったのだろう。あのまま放っておけば、彼らは確実に死ぬ。
「……行くしかないか。最後のノード(打刻ポイント)へ」
俺はため息をつき深く頷いた。
「お待ちください、アッシュ様」
エレナがスッと一歩前に出る。その瞳は、絶対零度の殺気を静かに宿していた。
「神の聖域を穢し、あまつさえ神の御手を煩わせるとは……たとえ私を慕う生徒会の者たちであっても決して許されません。直ちに私が氷結結界で地下まるごと凍らせて鎮圧し、愚か者どもをこの手で──」
「ダメだっ!! 相手はただの勘違いした学生だぞ! 殺してどうする!!」
俺は慌ててエレナの制裁(文字通り命を奪うこと)を止めた。
「よいかエレナ、セレスティア。中には絶対に騎士団を入れず、俺たちだけで行く。そして【絶対に誰も傷打つけるな】。血が一滴でも流れたら、俺が悲しむ(そしてシステム権限的にも殺人とかマジで面倒なログが残る)からな」
「「お、おおお……!!」」
俺の言葉に、二人のヒロインが感激の涙を浮かべた。
「反逆者すらも赦し、命を尊ぶ無償の愛……! さすがは我らが主!」
「承知いたしました、アッシュ卿! 我が剣の峰打ちでもって、愚か者どもへ『痛みの伴う指導』を施してまいりましょう!」
峰打ち(巨大魔力バフがかかっているため骨が砕ける)もダメだっての。
俺は全く安心できないポンコツ護衛二人を引き連れて、監査猶予期間の最後を飾る、馬鹿げた『狂信者からの聖域(鍵)の奪還作戦』へと赴くのだった。




