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第三鍵回収、帰還前の不穏ログ

【System:ローカルバックアップからのダウンロード完了。空間修正パッチ(フル・デリート及び再構築)を適用します】

 十・零秒。

 その瞬間、猛り狂っていた大渦の海と、空を覆うほどの巨大な魔獣(バグの塊)の動きが『ピタリ』と完全に停止した。


「……え?」

 空中で魔剣を振り下ろそうとしていたセレスティア王女の声が、間抜けに響く。

 次の瞬間、無音のまま。

 巨大な魔獣も、底が見えないほど陥没していた海面のブラックホールも、空を覆っていた分厚い暗雲も。

 まるで【雑なペイントツールで『全消し』して、『青い海と空』を塗りつぶした】かのように、一切の破片すら残さず、一瞬で跡形もなく虚空へと消失したのである。


「「「「…………」」」」

 ボロボロになった飛竜船の甲板で、全員が凍りついたように静止した。

 どこまでも平坦で穏やかな、フラットななぎの青い海が、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。先程まで船が真っ二つになりそうだった嵐の海が、完全に「何事もなかった初期状態の平和な海」へとリセット(再構築)されたのだ。


【System:第三の管理鍵(海上物流ノード・マスターキー)の所有権を確認】

【System:監査猶予期間カウントダウンを更新します】

【残り猶予期間:26日 → 33日へと延長されました】


 同時に、何もない虚空から銀色の『管理鍵(USBメモリ)』がスゥッと俺の手の中に落ちてきた。

 俺はそれを受け取りながら、深々と、10分間の寿命が縮むような溜め息を吐いたのだった。


「……終わった……。全部、消去完了したぞ」

 俺が力無く振り返ると。

 ガシャァァァン!! というものすごい音と共に、五百人の騎士と、神務庁の役人、そしてヒロイン二人が甲板に平伏した。


「な、なんという……なんという恐るべき奇跡だ……」

「アッシュ様が、10分間という長き『試練の儀式』を経て放たれたのは、破壊魔法などでは決してない。これこそが、世界そのものを書き換え、全てをあるべき美しい姿へと還す……『神の創世録』!!」

 ゼノンが血の涙を流しながら叫ぶ。


「おおおおおおっ!!」

「アッシュ神万歳!! 我らの苦難の10分間は、この世界を救うための尊い供物であったのだ!!」

 もう船上はカルト宗教の集会なんか目じゃない狂乱の渦だ。「10分のロード時間(通信遅延縛り)」をただ耐えていただけの船上乱闘が、「神の奇跡を発動するための尊い儀式(聖戦)」として完全に神話化されてしまったのである。


「違う、お前らが必死で頑張ってくれたおかげで、通信が切断……いや、船が沈まずに済んだだけだ。本当に助かった、ありがとう」

 俺が素直に労いの言葉をかけると。

「「「神が、矮小な我々の労働に『感謝』を……っ!!」」」

 と、騎士団たちの熱狂はさらにヒートアップし、海面を叩いて神に祈る者まで現れる始末だった。(もうツッコむ気力もない)。


 とにもかくこれで、『四つの管理鍵』のうち三つまでを手に入れたことになる。

 監査AI(AUDIT)の権限停止(アカウントBAN)までの猶予は33日。

 俺はこのまま王都に帰還し、最後の鍵を回収すれば、全ての制約から解放されて平穏な「全能のシステムデバッガー」の座に戻れる……はずだった。


「あとは、四つ目の鍵だけだな。場所は……」

 俺が視界のUIマップを開き、最後の一つである【学園地下・絶対封鎖区画】を確認した時。

【System:Warning。対象『学園・封鎖区画』にて、未知のユーザー・アカウントによる不当なアクセス集中の痕跡を検知。内部で重大な論理エラーが発生しています。早急な対応を要請します】


「……未知のアクセス?」

 嫌な予感がした。

 俺がこの数日、北方の温泉やら海上の渦やらで命がけのデバッグ出張をしている間。俺のホームグラウンドである『王都』で、何者かが最後の鍵を巡って良からぬ動きをしている。

 そんな胸騒ぎを感じながら、俺たちは波一つない穏やかな海を越え、王都への帰還の途につくのだった。


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