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海上物流ノード、十分防衛戦開始

「三つ目の管理鍵は、王都の南方にある『大陸間・海上物流ノード』に存在します」

 温泉での謎の大勝利から数日後。

 俺たちは王立魔法軍が誇る巨大な帆船(豪華装飾マシマシ)に乗り込み、穏健な潮風に吹かれていた。


「アッシュ様、カハッ……! 船酔いが……」

 甲板で完全にグロッキーになっているのは、元異端査察官のゼノンだ。事務職の彼には船旅はキツいらしい。一方で、セレスティアとエレナは潮風を心地よさそうに受けながら、なぜか水着のような露出度の高い軽装アーマーでうろうろしていた(神務庁が『海の旅にふさわしい正装』とか言って用意したらしい)。

「アッシュ卿! 海の魔物が出たならば、我が剣で即座に三枚おろしにして刺身をご提供しよう!」

「殿下、不衛生です! アッシュ様のお食事は、私が純水魔法で完全に殺菌した──」


 相変わらずの日常ドタバタである。

 俺は船の舳先で、潮風に当たりながら視界のUIログを見つめていた。

【残り猶予期間:26日】

 監査AI『AUDIT』による権限剥奪のタイムリミットまで、あと少し。

 今のところ、俺の『Delete遅延(5秒)』と『容量制限』は誤魔化し続けているが、こんな綱渡りがいつまでも続くわけがない。


「……あれ? 水平線の向こうが……妙に黒くないか?」

 ふと前を見た俺は、思わず目を疑った。

 青く澄み渡っていた海と空の境界線が、そこだけインクをこぼしたように真っ黒に染まり、天に向けて巨大な竜巻のようなものを形成している。


「アッ、アッシュ様! 大変です!」

 見張り台の騎士が、真っ青な顔で転がり落ちてきた。

「前方の海域が……『割れて』います! 海が陥没し、巨大な暗黒の大渦(大穴)が広がっており、我が船がその引力に吸い寄せられております!!」

「はあ!?」

 俺が身を乗り出して海面を見ると、信じられない光景が広がっていた。

 波が、ない。海が斜めに傾いている。前方の海域が、直径数キロにわたってすり鉢状に陥没し、底が見えないほどの巨大な渦巻ブラックホールを形成していたのだ!


【System:Warning。対象エリア(海上)の『物流空間ワープポータル』の座標基盤が完全破壊されています。空間の破れ(エラー)が周辺環境を吸い込んでいます】

「最悪のバグじゃねえか!!」


 これまでの「ゴーレム」や「吹雪」なんか目じゃない。

 システム上の空間転送(物流ショートカット)のエラーが物理的に海に穴を開け、文字通り世界を飲み込もうとしている!

 船の帆がいかに風を受けて逃げようとしても、何千万トンという海水の圧倒的な引き込み線に巻き込まれ、船体はメシミキッと悲鳴を上げながら暗黒の渦の底へとズリ落ちていく。


「あわわわ……神よ! 世界が、海が滅びようとしていますぞ!」

 船酔いから復活したゼノンが甲板で神にすがりつこうとする(俺の足首を掴んできた)。

「アッシュ卿! このままでは船ごと深淵に飲み込まれてしまう! いかがいたすか!?」

「セレスティア、エレナ! 船の姿勢制御に全魔力を注ぎ込め! 時間を稼げば……なんとかする!」


 俺は必死で視界のシステムUIを開き、目の前の巨大すぎる「空間エラー」をターゲットに指定した。

「Target:Ocean_Warp_Hole(ワープ空間エラー)! Action:Delete(消去)!!」

 当然のように弾かれると思った。しかし、予想外のログが表示された。


【System:対象の容量が極大です。強制終了(Delete)を実行する場合、『ローカルバックアップからのシステム全体の再構築パッチ』が必要になります】

【System:強制再構築コマンドを受理しました。これより空間修正パッチのダウンロード・適用を開始します】


「よし、消せる! いけるぞ!」

 俺が歓喜の声を上げた、その直後。


【パッチ適用完了までの待機時間……[ 10分 00秒 ]】


「──は?」

 俺の思考が停止した。

「10分……? 5秒遅延とか、そういう次元じゃなくて、10分間ただ待てって言うのか!?」

 その間に、船は絶対に渦に飲み込まれて粉々に消滅してしまう!!


ギュルルルルォォォォォォンッ!!

 絶望する俺に追い打ちをかけるように、大渦の中央から巨大な水柱が四本立ち上る。

 巨大なタコと竜を乱雑に融合させたような『深海のバグ(エラー生命体)』の巨大な触手が、船体を打ち砕こうと迫ってきた。

「アッシュ様! パッチ完了(神の裁き)まで時間はどれほど必要ですか!?」

「じゅっ……10分だ! 10分間、何が何でもこの船を渦から耐え切って、あの化け物を止めてくれ!!」

「承知いたしましたっ!!」


 俺の悲鳴のような指示に、ヒロインたちと全騎士団員は「神が下したたった10分の究極防衛戦!」と勘違いし、文字通り命を懸けた絶望的な船上大乱闘を開始したのだった。第三の鍵への道のりは、かつてない物理的な修羅場と化していた。


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