地下行政ノード、巨腕ゴーレム来襲
残り二十八日。最初の鍵は、王都地下にある。
猶予期間のカウントダウンが【残り28日】と非情に減っていく中、俺たちは王都地下の巨大な迷宮――『下水道区画(通称・行政ノード)』へと足を踏み入れていた。
「アッシュ様、お足元にご注意ください! 神の足が泥水に濡れるなどあってはなりません、このエレナが氷の道橋をお作りいたします!」
「いや、俺の周囲は騎士団の【歩行用・絨毯結界】で覆い尽くすゆえ問題ない! アッシュ卿はただ私の背を見つめて歩くだけでよいのだ!」
俺の左右で、過保護すぎるヒロイン二人が道無き地下下水道にレッドカーペットや氷の橋を架けながら進んでいく。
その後ろには、たいまつを掲げた五百人の神務庁直属騎士団が、ズラリと行列を作っていた。
「だから、なんでこんな大人数で地下ダンジョン探索してるんだよ……」
俺が盛大なため息を吐くと、隣を歩いていたゼノン査察官が真面目な顔で頷いた。
「当然です。これはアッシュ様が我ら人類に【管理鍵探索】という試練をお与えになったからこそ! 神の御前で、我々が少しでも戦力になることを証明せねばなりません!」
違う。俺はただ一人で「パッチ適用(鍵の回収)」に来ただけなのに、勝手についてきて盛り上がっているだけだ。
そもそも、この地下区画(行政ノード)は、かつて俺が初めて「スライム(バグの具現化)」と遭遇し、大祭壇のデータを強制フォーマットした因縁の場所である。
あの時も酷い目に遭ったが、今はさらに【ダウングレードされた権限】というハンデ付きだ。
ズズン……ッ!!
突如、地下水路の奥から、石壁全体を揺るがすような重低音が響き渡った。
「な、何奴ッ!?」
先頭を歩いていたセレスティア王女が、魔剣を引き抜いて前方を睨みつける。
薄暗い通路の先、巨大な空間(かつての祭壇跡地)の入口を塞ぐように、それは立ち塞がっていた。
【System:Warning。旧文明防衛プログラムの暴走個体を検知しました】
【対象種:防衛用重装魔力ゴーレム(レベル・カテゴリ不明)】
「……おいおい、マジかよ」
俺は冷え切った声で呟いた。
全長十メートルはあろうかという、岩と黒鉄で構成された巨人が、赤い一つ目を不気味に輝かせながらゆっくりと立ち上がったのだ。
かつて俺が祭壇のデータを丸ごと消去したせいで、行き場を失った防衛プログラムが『物理的な魔素の塊』として変異・増殖してしまったらしい。
どう考えても、前回のスライムより遥かにヤバい。
「アッシュ様! お下がりください。あのような単細胞の岩塊など、私がこの『絶対零度の──』」
「待てエレナ。あいつは普通の魔法で動いてるんじゃない。旧文明の直接コード(システム)で動いてるんだ」
俺はエレナを制止し、一歩前に出た。
こんな巨大なエラー塊、下手に攻撃魔法を撃ち込んでも吸収されるか、暴走して坑道ごと崩落する危険がある。
一番手っ取り早いのは、俺の「Delete」コマンドでエラーの中心ごと強制終了させることだ。……権限の失敗確率(7%)や遅延(5秒)を考慮しても、やるしかない!
「Target:Guardian_Golem! Action:Delete(消去)!」
俺は視界にポップアップした【YES】ボタンを、祈るような気持ちで押し込んだ。
頼む、5秒遅延したあとに、一発で消えてくれ!
【System:コマンド受領。権限確認中……】
【System:エラー。対象のデータ容量が、現在のあなたの『削除許可サイズ(上限値)』を超過しています。一括消去は実行できません】
「……はあ!?」
俺は思わず大声で叫んだ。
一括削除の容量制限!?
監査AI(AUDIT)の野郎、俺の権限を削っただけでなく、「デカいファイルは一発で消せない」という最悪の仕様変更までしてきやがったのだ!
ギゴゴゴゴゴゴゴォォォォッ!!
俺がフリーズしている間に、防衛ゴーレムの巨大な赤い一つ目が俺たちを捕捉し、まるで城壁のような巨大な鉄腕を振り上げた。
「アッ、アッシュ卿! 神の御業が……弾かれた!?」
「くそっ、セレスティア、エレナ! 防衛陣を張れ! 一発じゃ消せない!!」
俺の悲鳴に近い指示が響く中、容赦のない鉄の拳が、地下空洞を揺るがす勢いで振り下ろされようとしていた。




