猶予二十九日、鍵は四つ
猶予二十九日。鍵は四つ。
王都全域が「神のお導き」「四つの鍵を探せ」と尋常ではない熱狂に包まれる中、俺は主要メンバーだけを引き連れて、王宮のさらに地下深くへと潜っていた。
「ここが、真の監査インターフェース機能を有する『マスターノード』の入り口……!」
ゼノン査察官が、地下の大空洞にそびえ立つ巨大な銀色の金属扉を見上げて息を呑む。
俺の視線の先には、これこそ「旧文明の遺産」だと主張するような、一切のサビや汚れのない滑らかなコンソールパネルが存在していた。
俺が近づき、パネルに手をかざす。
ピピッという生体認証の音と共に、巨大な銀の扉が地響きを立てて左右にスライドした。
中に広がっていたのは、緑色の光の線で描かれた王都と周辺地域の広大な立体ホログラム・マップだった。
【System:AUDITコンソールを起動。管理者候補『ASH』への権限保持クエスト(監査プロトコル)の詳細を開示します】
【現在、あなたの権限は第一段階の失効状態(Deleteの5秒遅延、失敗率7%)です】
【恒久的な権限凍結を防ぐため、立体マップに示された4つの『アクセス・ノード』へ赴き、物理的な管理鍵を回収してください】
ホログラム・マップのあちこちに、赤いピンのような光の柱が四本、チカチカと明滅している。
一つ目は、王都の地下奥深く。
二つ目は、遥か北方の気候制御塔。
三つ目は、海を隔てた海上物流ノード。
四つ目は、なんと俺たちが通う学園の地下深くの封鎖区画。
「……どれもこれも、アクセスが悪すぎるクソ現場(僻地)じゃないか……」
前世の社畜時代、無茶な出張修理に行かされた時のトラウマが蘇ってくる。
これではもはや、のんびりした学園生活や平穏な公務員生活どころではない。ただの全国デバッグ巡業じゃないか。
「素晴らしい……!」
俺の絶望とは裏腹に、セレスティア王女が歓喜の声を上げた。
「神自らが地に降り立ち、四つの聖地を巡礼して邪悪なバグ(遺物)を打ち払う……! これぞ真の英雄譚! 我が騎士団が、全力で露払いを務めさせていただきます!!」
「ええ、アッシュ様の行く手を阻む障害は、すべてこの私が氷漬けにして差し上げましょう」
エレナまで殺る気満々で杖を構えている。
いや、そもそもノード(端末)の周りには絶対に旧文明が残した厄介な『防衛バグ』や『防衛兵器』がうろついているはずだ。今の俺は権限が制限されていて、Deleteがすぐに通らないかもしれないのに。
【System:猶予期間のカウントダウンを更新します】
【残り:29日】
視界の右上に、赤い数字が冷酷に刻まれている。
「……行くしかない、か。まずは一番近い、王都地下の行政ノードからだ」
俺が覚悟を決めて宣言すると。
「おおおおっ!! 神の出陣である!!」
「神聖大行軍の準備をせよ! 楽隊と騎兵五百を先頭に立たせるのだ!」
「だから! 地下ダンジョンに馬や楽隊を入れるな! 普通に少人数で隠密行動で行くんだよ!」
俺の悲痛な叫びは狂信者たちの熱狂にかき消され、ただの隠密デバッグ任務は、王都を巻き込む『神の大巡礼ツアー』へと変貌しつつあった。
カウントダウンによる死刑宣告まで、残り二十九日。
エラーまみれの神様(俺)と、最強で過保護なポンコツヒロインたちの、世界システムを相手にした壮大な「おつかいクエスト」の幕が、ここに切って落とされたのだった。
まず取りに行くのは、王都地下の第一鍵だ。




