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神を縛る派VS神を降ろす派

 ブラックアウト翌朝、王都は神権派と反神派に真っ二つに割れた。

 王都の中央広場は、これまでにない異様な熱気と怒号に包まれていた。

「神を玉座に固定せよ!!」

 広場の東側に陣取るのは、熱狂的な『神権派』。昨日の暗闇に恐れをなした民衆や過激な神官たちが、「アッシュ神が我々を捨てないよう、彼を神殿の最奥に物理的にお縛りし、二十四時間の祈りを捧げ続けるべきだ!」という、はた迷惑極まりない主張を掲げている。


「いや、偽神の衰えは明らかだ!! 今こそ人を人の手に取り戻す時!」

 対する西側に陣取るのは、『反神派』。彼らは先日の戦いで影を潜めていた旧教団の残党や、魔法至上主義の過激派貴族たちだ。「昨日の停止は限界の証拠。アッシュを引き摺り下ろし、再び我々魔法使いが世界を支配するのだ」と息巻いている。


 両陣営の間に、もはや対話を許さない殺気と火花の散るような魔力が立ち込めていた。

「アッシュ卿。もはや一触即発です。我が騎士団の武力をもって、双方とも鎮圧いたしましょうか?」

 俺を乗せた神務庁専用の装甲パレード馬車(昨日より一回りデカくなっている)の中で、セレスティア王女が魔剣の柄に手を伸ばす。


「やめろ、血の雨を降らせる気か! 俺が少し話してくる」

 俺が馬車から広場へと足を踏み出すと、両陣営の数千の眼差しが一斉に俺に集中した。


「アッ、アッシュ様が降臨されたぞ!」

「偽神め、のこのこと姿を現したか!」


 俺は深呼吸をして、両手を上げた。

「みんな、落ち着いてくれ。昨日の機能停止は少しシステムの調子が悪かっただけで、俺が玉座から下りることもなければ、縛り付けられる必要もない。すべては俺の手の中で(文字通りに)管理されてるから──」


 その言葉を言い終わる前だった。

 突然、王都の空が、血のような『真っ赤』に染まったのである。


『な、なんだ!?』

『空が……燃えているのか!?』


 いや、炎ではない。

 それは、ナノマシン(魔素)の極大集合体が、空という巨大なキャンバスに直接「物理的な光の文字」を強制レンダリングした結果だった。

 俺の視界の中にしか見えないはずの、監査AI(AUDIT)の非常システムメッセージが、前代未聞の『王都全域ホログラム放送』として投影されたのである!


【AUDIT:王都全域の端末(人類)へ緊急配信】

【AUDIT:現在、世界管理者ID『ASH』の権限行使において、深刻な不正・濫用の疑いが検出されています】

【AUDIT:これより『管理者の試練』を実行します】


「……おい、嘘だろ……なんで俺のリストラ面談を世界生放送にしてるんだよ……!」

 俺は空を見上げて絶望の呻きを漏らした。

 こんな監査AIからの『不正使用の警告メッセージ』なんて、社内にバレたら一発でクビ(神としての失脚)案件だ!


「不……正?」

 広場に集まっていた民衆、神権派、そして反神派の顔が、空の巨大な赤い文字群を見つめてポカンと凍りついた。

 終わった。俺の「完全無欠の神」というメッキが剥がれ、ただの権限剥奪寸前のポンコツであることが暴露されてしまった。

 ……そう、思ったのだが。


「……おお……おおおお……!!」

 最初に声を震わせたのは、神権派の長だった。

「皆様! お気付きですか!! 空に浮かぶあの難解な古代文字の羅列……! 我らがアッシュ神は、ついに星そのものを使い、我ら人類に『直接の神託クエスト』を下されたのです!!」


「「「な、なんだってーー!?」」」

 なんと反神派の連中すらも、その声を聞いて「アッシュが意図的に文字を浮かべた」と勘違いして空を仰ぎ見ている。

 違う、俺じゃない! 監査AI(人事)の嫌がらせだ!


【AUDIT:管理者権限を恒久的に維持するためには、所定の期間内に王都周辺の4つの『物理管理鍵ノードキー』を回収し、上位承認を得る必要があります】


 空の文字が、さらに決定的なメッセージを紡ぎ出す。


「見よ! 神は『鍵』を探せと仰せだ! これぞ我らの信仰を試す大いなる聖戦!」

「フンッ! 偽神を倒すための『封印の鍵』かもしれないぞ! 我々反神派が先に見つけてやる!」

 暴動寸前だった広場が、突如として『神が指定した四つの鍵を探すお宝探しコンテスト(熱狂的な宗教戦争)』へと、完全にジャンルを違えて燃え上がり始めてしまった。


「アッシュ様……」

 エレナがウルウルとした瞳で俺を見上げている。

「ご自身で探すことなど一瞬でできるはずなのに、あえて我々人類を信じ、試練を与えてくださるのですね……!」


 空に輝く真っ赤なエラー通知。熱狂する数千の民。

 俺はもはや否定するのも諦め、迫り来る『猶予ギリギリでのノード巡り(物理認証)』という過酷な業務命令に、静かに胃薬を所望するのだった。

 猶予は二十九日。鍵は四つ。逃げ場はない。


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