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過保護ヒロイン、訓練場を半壊させる

 魔法省の馬車(という名目で神務庁が用意した、白馬六頭立てのパレード用特別車)に揺られ、俺は王宮の訓練場へと急行した。

 到着した瞬間、目の前で巨大な氷壁と白銀の剣閃が激突し、爆発音と共に凄まじい衝撃波が巻き起こった。

「そこを退きなさい、王女殿下! 主(アッシュ様)の御側に侍るのは、この『第一の盾』たる私だけで十分ですわ!」

「笑止! 氷の魔法ごときに頼る柔弱な盾など、神の御前には不要! 己の肉体と魔剣のみで世界を切り裂くこのセレスティアこそが、究極武神たるアッシュ卿の隣に相応しい!」


 訓練場はすでに半壊し、クレーターだらけになっていた。

 俺の「神務庁しんむちょう専用近衛隊長」の座を巡って、ヒロインたちによる容赦のない物理的・魔法的な殺し合い(じゃれ合い)が絶賛展開中である。


「お前ら、いい加減にしろ!」

 俺が馬車から身を乗り出して叫ぶと、激突寸前だった二人の動きがピタリと止まった。


「アッ……アッシュ様ぁぁっ!!」

「アッシュ卿!!」

 二人は空中で軌道を変え、ものすごいスピードで俺の足元へとスライディング土下座を果たした。訓練場の床の石畳がゴリッと削れる。


「アッシュ様、申し訳ございません。このような無粋な争いでお手を煩わせるなど……。ですが、神の御身に異常なまでの重圧(エラーの頻発)が降りかかっている今、我々が完璧な『防衛計画』を立てねばならない責務があるのです!」

 エレナが真剣な表情で、とんでもない提案資料(巻物)を差し出してきた。

「私は『絶対包囲・神聖氷壁結界アイギス』を提案します。王都全域の主要道路を私の氷壁で囲い、アッシュ様が歩かれる道全てを『完全に無菌で、誰も許可なく近づけない絶対安全の透明トンネル』にする計画です! これなら、不測の事態バグからアッシュ様を完全に保護できます!」


「ふざけるな、そんな無粋な氷のトンネルなど神への冒涜だ!」

 横からセレスティア王女が立ち上がり、魔剣を地面に突き立てた。

「我が騎士団による『百万の盾・肉の壁作戦』こそが至高! アッシュ卿の周囲半径一キロを、常に重装歩兵三千人で完全包囲し、ありとあらゆる物理的・魔法的脅威の前に自らの命を投げ出す『生きた防壁』を形成するのだ! これぞ忠義!」


「どっちも却下だ!! 王都の機能が完全に麻痺するだろうが!」


 氷の無菌トンネルを街中に作られたら交通インフラが崩壊するし、歩兵三千人の肉の壁で移動されたらそれはもうただの侵略軍である。

「ただでさえ王都は今『小規模なエラー(魔法障害)』で混乱してるんだ。お前らは俺を守るより、街の修復や避難誘導(神務庁の仕事)を手伝ってくれ」

 俺が呆れて言うと、二人はハッとして顔を見合わせた。


「なるほど……。神は全てを救済するがゆえに、我々にも『隣人を愛する』という試練をお与えになったのですね……っ!」

「おおお……! 我らの偏狭な忠義を、広く民へ向けよと! なんという慈悲深きご采配!」


 都合よく感動し始めた二人にため息をつきつつ、俺は視界のUIログへと密かに意識を向けた。

【System:王都システムのローカルキャッシュ破損率……3%。不完全な権限により、世界全体の演算能力が低下しつつあります】

【猶予期間:残り28日】


 この数日、俺が手動でバグを潰して回ることでなんとか王都の被害は最小限に食い止めてきた。しかし、今の俺の権限──『暫定権限』では、根本的な解決にならない。

 AUDIT(監査AI)が俺の正規権限を凍結している理由。

 そして、この「猶予期間」が終わった時に何が起こるのか。

 システムにただ漠然と対応するだけでは、いずれ完全に詰んでしまう。


「……エレナ、セレスティア。二人にも付いてきてほしい場所がある」

 俺が声をかけると、二人はピンと背筋を伸ばし、「ははっ!」と膝をついた。

「俺は少し……調べ物をしないといけない。『世界の深淵システムのログ』に触れる場所にな」


 俺が見据えたのは、王都の地下……かつて俺が初めて「システム権限」を手に入れた場所である、学園の旧図書棟の隠し部屋だった。

 あそこにある旧文明のオリジナル端末マザーコンピューターのコンソールを使えば、監査AIと直接ネットワークを繋ぎ、制限を解除するヒント(復旧プロトコル)が得られるかもしれない。

 過保護な狂信者たちを引き連れて、俺は再び、運命が狂い始めたあの薄暗い旧図書棟への扉を開く決意を固めるのだった。


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