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障害十件、魔法省から緊急招集

 午前中だけで十件の障害を潰した直後、魔法省から呼び出しが来た。

 俺は魔法省の最奥、アルベルト長官の広大な執務室に呼び出されていた。

「アッシュ特別監察官……いえ、我らがアッシュ神! 本日の迅速なる『奇跡(パンの創造)』、誠に痛み入ります!」

 立派な髭を蓄えたアルベルト長官が、ふかふかの絨毯の上で深々と頭を下げている。その隣には、俺の『ルートミュート』を食らって以来、筆頭狂信者の一人となったゼノン査察官が、熱に浮かされたような目で俺を見つめていた。

「今朝から王都各地で発生している原因不明の局地的障害(魔素の乱れ)……。我ら人間には手も足も出ぬ現象に、アッシュ様が御自ら降臨され、次々と世界を救済してくださっていること、心より感謝申し上げます!」


 ……違う。救済してるんじゃなくて、俺の権限が制限されたせいで起きてるバグの尻拭いをして回っているだけだ。

 俺は半日で王都の十箇所を駆け回り、「消えた橋の再ロード」や「逆流する噴水のデバッグ」を手動で行って、すでに疲労困憊だった。


「いや、それは俺の仕事のようなものだからいいんだが……」

 俺はふかふかのソファに深くもたれかかりながら、ため息を吐いた。

「なんというか、件数が多すぎる。俺一人で全部手動で回すのは、物理的に無理があるんだ」

【System:エラーログのスタック数が 3,500 件を突破しました。未処理タスクが山積みです】

 視界のUIログが、俺の言葉を裏付けるように真っ赤な警告を出している。


「! ……おお、なんという自己犠牲の御心!」

 ゼノン査察官が突然膝をつき、祈るように両手を組んだ。

「神であるアッシュ様が、我ら矮小な人間のために御身を削り、その肩に重荷を背負っておられる……! そして我々に『手伝ってほしい』と、優しき言葉をかけてくださったのだ!!」

「いや、手伝えとは一言も──」

「仰る通りでございます!!」


 アルベルト長官がドンッと机を叩き、一枚の重厚な羊皮紙の書類を俺の前に差し出した。

「実は、国王陛下および魔法省の総意といたしまして、新たな国家機関の設立を決定いたしました。その名も――『国家神務庁』!!」

「……しんむちょう?」


「はい! アッシュ神の御業をサポートし、障害発生地域への迅速な移動手段の手配、民衆の避難誘導、そして『奇跡』のあとの事後処理(熱狂する信者の警備など)を専門に行う、国家直属の特別防衛機関です!!」

 俺は差し出された書類(稟議書)に目を通した。

 予算規模:白金貨十万枚。

 所属人員:王国騎士団および魔法省精鋭より選抜されたエリート千名。

 長官(名目上):アッシュ・アルマンド。


「いやいやいや、ちょっと待て。俺はただのいち学生で、公務員ですらないんだぞ!? こんな大規模な省庁のトップになんてなれるわけが──」

「すでに陛下のご署名・ご決済は完了しておりますぞ! さぁ、アッシュ様! ここに『受諾』のサインを!」

「……えぇぇ……」


 俺の権限(ダウングレード済み)の尻拭いのために、国家予算を傾けるレベルの専門省庁が爆誕してしまった。

「さらに!」ゼノン査察官が興奮気味に身を乗り出す。

「アッシュ様の御身を護る『神聖近衛隊(仮)』の初代隊長につきましても、熾烈な争いが行われております! 現在、第一王女であらせられるセレスティア殿下と、天才魔導師エレナ・クレル嬢が、王宮の訓練場で『どちらが神の御側で盾となるに相応しいか』を賭けて実弾魔法による決闘を──」


「あの馬鹿ども、また市街地でドンパチやってんのか!?」

 俺は思わず立ち上がった。

 権限がダウングレードされている今、あの二人の「規格外の魔法物理ファイト」をワンクリックで安全に消去デリートできる自信がない。

『監査AI』による一時的な権限停止の危機に加えて、狂信者たちの過剰なフォロー(物理破壊)の尻拭いまで増えるなんて。


【System:緊急。王宮第2訓練場にて極大の魔力衝突エラーを検知。放っておけば王宮の半分が消し飛びます。デバッグを要請します】

「……長官、悪いが事後処理の第一号タスクだ。馬車を出してくれ」

「ははぁっ! 直ちに神輿の手配を!!」

「だから神輿じゃなくて普通の馬車でいいって言ってるだろ!」


 俺の平穏(システム管理者権限)が失われたことによって、王都の政治と狂信者たちのブレーキも完全にぶっ壊れていくのだった。

 そして次の現場は、王宮訓練場。ここから失効テストが本格化する。


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