第44話 休日争奪、世界と共存
「Target:Local_Error… Action:Delete」
俺は自室(神聖宮殿の寝室)で、ベッドの上に寝そべりながら日課のバグ取りをこなしていた。
王都を飲み込もうとしたメイン・フレームのウイルスを消去して以来、システムのAIたち(神々)からの俺への「信頼」はストップ高を記録しっぱなしだ。
『システム:本日のデバッグ進捗80%。全権限ユーザー(アッシュ)の継続的な献身に感謝します』
『気候管理AI:おかげさまで南大陸の魔素ハリケーンが消滅しました♪ 次回もよろしくお願いしますね☆』
「……なんか、AIたちのUIメッセージが最近フレンドリーになってきてないか?」
俺が訝しげに呟くと、視界の隅に小さく「(`・ω・´)ゞ」というアスキーアート的なアイコンが表示された。
旧文明のAIども、機能が回復してきたからって変な自我を取り戻してないかコレ。
「まあ、悪い気はしないけどな」
俺はスライム(聖冠)を撫でながら、窓の外を見た。
王都の空は今日も青く、平和だ。エレナや王女たちは、相変わらず俺を「神」として崇め奉り、何かにつけて俺の一挙手一投足を教義に組み込もうとしてくるが。
「アッシュ様」
コンコン、と控えめなノックの後、エレナが入ってきた。
私服姿の彼女は、教皇としての威厳あるローブを脱ぎ、年相応の可愛らしいワンピースを着ている。
「……ん? どうしたエレナ。そんな格好で」
「あの。本日は……アッシュ様の『週に一度の完全休息日(休日)』でございます」
エレナがモジモジとしながら、顔を林檎のように赤く染める。
「その……もし。もしよろしければ、王都の城下町へ……お忍びで、視察(という名のお出かけ)に行かれませんか?」
「お」
俺は少し嬉しくなった。
いつも「神よ神よ」とうるさい彼女たちだが、俺が一人の人間として「普通に遊びたい」と伝えた時だけは、こうして一人の女の子として接してくれる。
……まあ、それを「神の人界体験」とかいう独自の解釈で正当化しているのは知っているが。
「行く行く。久しぶりに、あの店の美味いパンが食いたいしな」
俺が立ち上がると、エレナはパァァッと顔を輝かせた。
「はいっ! では、私が完全な隠蔽魔法をかけまして──」
「待て泥棒猫!!」
バンッ!と窓を割って(おい)、私服姿のセレスティア王女が飛び込んできた。
「アッシュ卿のお忍び視察、武を預かる私に声をかけぬとは何事だ! 卿の隣を歩くのはこの私!」
「お黙りなさい! 私は一ヶ月前からこの日のためにアッシュ様への申請書(祈り)を提出しておりましたのよ!」
「ふん、私は一年前から卿との婚姻届を懐に忍ばせているぞ!」
「なんとふしだらな! アッシュ様、このような野蛮な女は『消去』してしまいましょう!」
「お前ら、喧嘩するなら俺は一人で寝てるぞー」
俺が呆れたように言うと、二人はピタッと喧嘩をやめ、「「申し訳ございません神よ!!」」と綺麗な土下座を決めた。
相変わらずの、狂騒と勘違いの日々。
俺が望んでいた「静かな公務員ライフ」とは百八十度違うが。
【System:ユーザー(アッシュ)、本日のタスクは完了しました。Rest_Mode(休息)に移行します】
視界のUIが、優しく緑色に点滅する。
どうやら世界も、今日くらいは俺に有給をくれるらしい。
「ほら、行くぞ二人とも。パンが売り切れる」
「はいっ! アッシュ様!」
「御意のままに!」
俺は魔力ゼロの普通の足で、最高の狂信者たちと共に、平和になった──俺自身が管理する美しい世界へと、笑いながら歩き出したのだった。
(『魔力ゼロの落ちこぼれ貴族、神々のエラーメッセージが読めるようになる』 第一部 完)




