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第34話 神の就職、初出勤

 魔法省・特別監察官としての初出勤日。

 ようやく掴んだ公務員スタートのはずなのに、朝から胃が痛い。

 真新しい制服に袖を通し、俺は王宮内の魔法省本庁舎へ向かった。


「素晴らしい……! アッシュ様、最高にお似合いです!」

「制服姿のアッシュ卿、その威風堂々たるお姿だけで他国の軍勢が尻尾を巻いて逃げ出しそうだな!」


 当然のように、俺の初出勤にはエレナとセレスティア王女が付き添っていた。

 彼女たちのお陰で、道行く官僚たちが俺を見ては「ハッ!」と直立不動で敬礼してくる。

 新入社員(といっても特例なので学生と兼任だが)に対して省庁のトップレベルの待遇。悪くない。いや、目立ちすぎて胃が痛い。


「きゅいっ♪」

 俺の肩に乗ったスライム(元バグ塊)が、ご機嫌にプルプルと震えている。

 こいつは『アッシュ卿の御使い(聖獣)』として魔法省から正式に飼育が許可されている。公的にスライムを職場に持ち込める公務員なんて、世界広しといえども俺くらいだろう。


「ようこそ、アルマンド特別監察官!」

 魔法省の長官室。

 俺を出迎えたのは、満面の笑みを浮かべたアルベルト長官と、かつて学園で俺の『ルートミュート』を食らって以来、俺を狂信的に崇拝しているゼノン査察官だった。


「長官、本日からよろしくお願いします。それで、俺の『事務仕事』のデスクはどの辺りに──」

「デスク? はははっ! 冗談を仰る! 貴方のような【歩く国家戦略兵器】をデスクに縛り付けるなど、宝の持ち腐れどころの騒ぎではありませんぞ!」


 アルベルト長官がドンッと胸を叩いた。

「貴方の役職は『特別監察官』。その主な任務は、【国家の手に負えない異常魔法災害(という名の残存する旧文明のバグ)】の物理的・魔法的な排除です! 言わば、魔法省の裏のエースとしての遊撃部隊デバッグチームの隊長ですな!」


「……は?」

 俺の笑顔が引きつった。

 事務仕事じゃないの? クーラー(魔法の冷気)の効いた部屋で、定時まで書類に判子を押すだけの平和な仕事じゃなかったの!?


「お任せを、長官!」

 俺が抗議する前に、横からエレナが一歩進み出た。

「アッシュ様の遊撃部隊の実働要員として、このエレナを副官にお命じください! アッシュ様の手を煩わす雑魚は、すべて私が一片の氷の塵に変えてご覧に入れます!」


「我が騎士団からも精鋭を出向させよう!」

 王女が剣の柄を叩く。

「いや、私自らがアッシュ卿の直掩ちょくえんを務めよう。国家最高の矛と盾が揃えば、卿の力を存分に振るうことが可能だ!」


「おお、頼もしい! アッシュ卿の周囲には、すでに王国最強の戦力が集結しておられるのですね。ならば早速、最初の任務クエストをお伝えしましょう」


 アルベルト長官が、重々しい表情で一枚の分厚い報告書を机に広げた。


「教団の連中が残した、厄介な置き土産です。彼らが地下大祭壇で最後に行っていたハッキングの『ログ』を解析した結果、王都から遠く離れた果ての地、通称『大絶壁』に眠る【完全魔法耐性を持つ旧文明の未帰還兵器】の再起動コードが送信されたことが判明しました」


「完全魔法耐性……っ!」

 ゼノン査察官が息を呑む。

「いかなる魔法も通じぬ、旧時代の悪魔……! それが目覚めれば、我が国の魔法部隊では一切太刀打ちできません!」


「ええ。ですが、我々にはアッシュ卿がおられる!」

 長官が俺を熱を帯びた目で見つめる。

「すべての魔法を無効化するアンチマジックの怪物には、いかなる法則も無(シャボン玉など)に帰す、さらに上位の絶対者アッシュをぶつけるしか道はありませぬ! どうか、初仕事としてあの大絶壁へ赴き、怪物を【消去デリート】してきてはいただけないでしょうか!」


 ……だめだ。

 公務員になっても、俺のタスク(AIからのデバッグ依頼)は、形を変えて『国家からの討伐依頼』になっただけで、本質的には何も変わっていなかった。


【System:クエストログ更新。強制イベント『大絶壁の未帰還兵器(アンチ・アンチ・マジックの怪物)の完全デバッグ』を受注しました】


「……わかりましたよ」

 俺は深く、深くため息をつきつつ、魔法省の真新しいマントを翻した。


「行こう、エレナ、セレスティア。俺の『初出張』だ」

「「はいっ! 我が主(神)!!」」


 こうして俺は、「安定した公務員ライフ」の幻想を胸に抱きながら、狂信者の美少女二人と手乗りのスライムを引き連れ、最終決戦(最大のバグ潰し)の地へと旅立つことになったのだった。


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