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第21話 300秒停止コマンド

「はぁぁぁぁっ!!」

「『氷結の檻』!」


 旧校舎の裏庭で、激しい剣戟と魔法の衝突音が響き渡っていた。

 セレスティア王女の振るう魔剣からは、一振りごとに真空の刃(物理寄り)が飛ぶ。

 対するエレナは、圧倒的な手数の氷魔法で猛攻を防ぎつつ、的確にカウンターの氷槍を放っていた。


「やるな学生! だが、その魔力量……いつまでもつかな!」

「アッシュ様への愛と忠誠に、限界などありません!」


 ……もう突っ込む気力もない俺は、ベンチの下にしゃがみ込んで頭を抱えていた。

 まさか俺の代わりにエレナが王女とガチバトルを始めるとは。

 このままじゃ、どっちかが怪我をするか、最悪の場合王女を傷つけた罪でエレナが投獄されてしまう。


「どうにかして止めないと……っ!」

 俺は視界のアラートを必死に凝視した。


『対象1(エレナ):魔法プロセスの実行中。強制終了パッチ可能』

『対象2(セレスティア):物理運動の大部分を占める。ただし、魔剣による加速支援・筋力増強プロセス(ナノマシン接続)も検知可能』


 なるほど。

 王女の『神速の剣撃』は、純粋な筋肉の力だけじゃない。魔剣を通じてナノマシンから微弱な強化支援バフを受けているからこそ、あのあり得ないスピードが出ているのだ。


「なら、二人の『支援機能(魔法)』だけを同時に落とせば、ただの小競り合いに引き下げられる……!」


 俺は集中し、あの地下水路で使った『マニュアル操作(コマンド入力)』を脳内で構築した。


『Target: Entity.Elena.Magic_Output, Entity.Celestia.Weapon_Buff』

『Action: Suspend_Process (一時停止)』

『Duration: 300 seconds』


 二人の攻撃が限界まで高まり、巨大な氷の槍と、光輝く剣閃が正面から衝突しようとした、まさにその瞬間。


「ストォォォップ!!」

 俺の叫びと共に、脳内で【Enter】キーを叩きつけた。


 ——プツンッ。


「え?」

「な……!?」


 二人の間抜けな声が重なった。

 エレナの放った氷の槍が、空中でパウダー状の雪になってサラサラと消滅した。

 そしてセレスティア王女が振り下ろした魔剣からは、光のオーラが完全に消失し、ただの「ちょっと重たい鉄の剣」へと成り下がった。


 ドンッ!とお互いに勢いあまり、ただの生身の女の子の体当たり同士のような格好で、二人はもつれ合って芝生の上に倒れ込んだ。


「い、痛ぁっ……!」

「な、何が起きた……私の魔剣の出力が、完全にゼロに……!?」


 王女が信じられないものを見るような目で、自分の剣を見つめる。

 だが、彼女の驚きはそれだけでは終わらなかった。


「ま、まさか……アッシュ卿……貴方が……!?」

 王女がハッとして俺を見た。彼女の青い瞳が、恐怖と畏敬の念で震えている。


「私とこの魔族まがいの娘の、極限状態での攻撃の衝突……その『魔法のエネルギー』と『魔剣の強化限界』を、ピンポイントで見極め……同時に相殺したというのか!?」

 王女は這いつくばったまま、俺に向かって叫んだ。

「もし一方の力を消し損ねていれば、私か彼女のどちらかが死んでいた! それを、一歩も動かず、詠唱もなく、寸分の狂いもない精度でコントロールし切ったと……!!」


 王女の体が、理解不能な現象を前にガタガタと震え始めた。

「バカな……。あれほどの出力相殺、世界の理(物理法則)に直接手を突っ込んで弄らなければ不可能な芸当だ……! 貴方は……本当に『神』の領域にいるというのか……!」


 いや、ただお互いの魔法のコンセントを5分間だけ抜いた(一時停止した)だけなんだが。


「アッシュ様……!!」

 そこに、エレナが感涙にむせびながら起き上がってきた。

「おお、アッシュ様……! この愚かで野蛮な争いを、一片の血も流さずに鎮められるとは! 戦いに酔いしれた私に、なんと無言の、そして深遠なるお叱りを……! このエレナ、一生の不覚!」


「あのな二人とも……」

 俺がやれやれとため息をついて歩み寄ると。


「「申し訳ございませんでした!!」」


 王宮の筆頭騎士である第一王女セレスティアと、学園トップの天才少女エレナが、俺の足元で並んで綺麗な土下座を決めた。


「私の見立てが甘かったです! アッシュ卿……いえ、アッシュ神! 貴方様の実力、命をもって理解いたしました!!」

「アッシュ様……このエレナ、まだまだ修行が足りませぬ! 今夜は徹夜で千日回峰行の反省をいたします!」


【System:タスク完了。王国上層部(王家)からの信仰心パラメータが上限を突破しました。システム管理者(神)への承認要求を実行しますか? [YES/NO]】


「NOだ! どうして俺の周りには、土下座する女しか集まらないんだ!!」


 俺はもう、どこから説明していいかわからず、とりあえず夕日に向かって全力で叫ぶことしかできなかった。

 そしてその夜、学園長が差し出した「長期休暇」の提案が、俺の淡い希望をまた別方向へ粉砕する。


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