97.いつのまにすれ違ったんだろう
夜になりルルはアリィと自分が暮らす家に帰った。
レウスが家まで送ってくれて、別れるときはまた明日と言って口づけをする。
家にアリィの姿はなく、一人になると心に寒さが戻ってくる。
奥の寝室は窓がなく真っ暗なため、魔法で明かりを作りだした。
軽く湯あみを済ませて、ベッドで横になる。
明かりを消し、真っ暗な中しばらくまどろんでいるとぎしりとベッドがきしみ、身体に重たさを感じ驚いて目を覚ます。
誰かに馬乗りになられていることに気が付き起き上がろうとするが、両手を拘束されて動けず、恐怖で叫ぼうとしたとき「ルル」と呼ぶアリィの声が目の前の人物から聞こえた。
アリィが何故自分に覆いかぶさっているのかわからず、困惑が隠せない。
何より真っ暗で、アリィの声は聞こえるが表情が全くわからないことがより恐怖と不安を増長させる。
「ア、アリィ? びっくりした………帰ってきたのね、またどこに行っていたの? 怪我はしてない……?」
「ルル」
「なに?」
「あいつにあげたんだね、ルルの心も身体も」
「え……」
アリィの声は平たんで淀みさえない。
大切な人のはずなのに別の何かに思えて恐怖がこみ上げ、ルルは瞳が揺れる。
「アリィ……? どう、したの……?」
「ねぇ、あいつにもあげたのならあたしにも同じものくれる?」
「えっ……何を言っているの?」
アリィの手首を握る力は痛みを感じるほど強く、何を考えているか声色から全くくみ取ることができない。
「やめ……やめて、アリィ……どうしてしまったの?」
「どうして? あたしのことも愛しているでしょう?」
「そうだよ、でも……こんなことは……」
「あたしが女だから? だったら、嫌だけど身体の性別変えたら受け入れてくれる?」
「違うっ、違うよ! そういう問題じゃない! わたしにとってアリィは大切な家族だもの……」
「か、ぞく……ふふ、あははは……ふふ……家族、かぁ…………うん、知ってた……」
アリィの声が平たんなものから涙声に変わった。
拘束されていた両手が放され、アリィの気配が遠のいていく。
(アリィ……アリィ!)
ルルは恐怖で動けなかったが、離れるアリィを今掴まえなければずっと取り戻せないような気がして、腕を伸ばした。
ぎりぎりで服の端を掴まえることができ、しっかりと握る。
「まって……アリィお願い……」
「怖い思いさせて、ごめん……あたしが言ったこと忘れて……」
「忘れたりなんてしないから! お願い、ちゃんと話そう……」
「いくら話しても、きっとわかんないよ。だって、今まであたしの言ったこと本当に理解したことあった?」
ルルはどきりと心臓が跳ねた。
長い時間一緒に過ごしてきたというのに、アリィの言葉を理解しようとずっと考えて、考えて、考えていたのに、結局一度はアリィの気持ちを手放してしまった。
その罪のように感じる意識がアリィの服の端を握る手を緩めさせてしまった。
「ごめ……ごめんなさいアリィ……わたし、アリィの気持ちをずっと踏みにじってきた……今だって……考えの足らない馬鹿でごめんなさい……アリィの気持ちなかったことになんてしないから……ちゃんと理解できるまで、考えるから」
「ルルを苦しめたいわけじゃないんだ。大丈夫、今はちょっと頭を冷やす時間が必要ってだけだから」
「でも……」
「じゃあ、明日……明日、あたしに一日ちょうだい。それで、全部終わりにするから」
アリィの切望する声に、ルルは胸が突き刺されるような痛みを感じた。
そしてただ静かに「うん……」と答えた。




