95.あなたたちが幸せなら
日が落ちてからレウスとルルは集落へと戻った。
レウスがルルとアリィが住む家まで送ってくれたが、アリィがいないことを知るととても不安そうにそわそわしていた。
「本当に一人で大丈夫か? 僕のところにいればいいだろう?」
「ありがとうございます、でもアリィのことを待ちたいので……」
「む、そうか……何かあればすぐに呼んでくれ。すぐに駆け付けるから」
「はい……」
お互いに離れがたそうに見つめあい、自然と口づけをする。
今日初めてお互いの気持ちを確かめ合ったばかりだというのに、まるでこれが普段通りであるように錯覚する。
「また明日……朝ご飯を作りに行きますから」
「それは楽しみだ……うむ、また明日」
レウスは優しく微笑んで、ルルにもう一度口づけをしてから自分の巣穴に帰っていった。ルルは見えなくなるまで彼の姿を目で追った。
(こんなに幸せなことなんだ……好きな人がいるって……好き……大好き)
レウスのことを考えると自然と笑みがこぼれる。
数日前まで絶望に打ちひしがれていたというのに、今は世界で一番幸せになってしまっているのかとさえ思えてしまう。
それは、ルルが無力で今は何もできないことを意味している。
ただ、暗い部屋に一人になるときょうだいたちが自由を奪われているというのに、自分だけこんな幸せを味わっていることに罪悪感が生まれる。
あの命を摘み取ることに何の躊躇もなく残酷な末妹がルルの説得で心動かされるわけもなく、ペロージアさえも超える魔力を持つ彼女に太刀打ちできるわけでもない。
きょうだいたちがどうか無事でありますようにと祈って、ルルは寝室のベッドにもぐりこんで、身体を縮める。
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穏やかだった妖精界は、随分と命の数が減り、今日も悲痛な悲鳴が響いている。
「まぁ、見てお姉さま、あんなところにもいましたわ! まったく弱いのにこんなにたくさん増えてしまって、やはり選別が必要ですわね」
大妖精ルルディが妖精の住む森を散歩しながら、魔力の弱い妖精をまるで肩にかかった埃を払うくらいの軽い気持ちで、魔法の炎で燃やしたり握りつぶしたりしてその命を散らす。
哀れな妖精たちは、悲鳴をあげて、助けてほしいと懇願するのだが大妖精ルルディには妖精を哀れむ慈悲は存在していなかった。
そんな残虐な末妹を首に枷を付けられ、鎖でつながれたペロージアが退屈そうにルルディの非道を眺めていた。
それよりも、鎖がしっかりとルルディに握られていて、現状がまるで犬の散歩のようになっていることと、この末妹に無理やり着せられたこの衣服に関しての方が、ペロージアにとって不快で仕方がなかった。
ルルディはペロージアがひらひらでかわいい服を着ているのを満足そうに眺める。
「うふふ、わたくしと同じかわいい服。ああん、やっぱりお似合いですわ、ペロージアお姉さま」
ルルディは、産まれたあの日から本当にペロージアと片時も離れることなく、ペロージアにべったりになった。
さらにペロージアにとって苦痛だったのがルルディは自分の思い通りにペロージアを変えたいらしく、服装と髪形まで自分の趣味を押し付けてきた。
おかげで今もひらひらの服に髪もルルディと同じように左右で結われていて、まったくもって心地が悪い。
「ひらひらはボクの趣味じゃない。髪形も落ち着かない」
「だめですわ。大好きなお姉さまには、可愛いわたくしと同じ趣味になっていただきますからね」
「似合わない。気色悪い。大ブス」
「もう、お姉さま、言いましたよね? お口が悪いとお仕置きですわよ」
ルルディはどこからともなく腕の長さほどの鞭を取り出し、手のひらで軽くとんとんと叩く。
ルルディは加虐性があり、ペロージアが抵抗すると顔以外を鞭でひっぱたいてきては、恍惚とした歪んだ顔で笑う。
ただペロージアはそれで屈服することはなく、それをいつも「本当に気色悪い。反吐がでる」と言って、怪我を自分で治してまた素っ気ない態度をとることを日々繰り返していた。
お仕置きを終えても全く態度をかえることのないペロージアに、ルルディは愛らしい顔で頬を膨らませる。
「もうっ、お姉さまってばいい加減わたくしに屈服してくださらないの!?」
「しない、する必要がない。産まれた時からすでにお前が上でボクは下だ。ボクはお前よりも魔力は少ない。弱い妖精が生きる必要がないのなら、他の妖精たちのようにボクを殺せばいい。何故しない?」
「簡単なお話しですわ。お姉さまはわたくしのお気に入りですもの。蕾の中ずぅっと見ていました。孤高で美しいお姉さまのお姿を……なのに!」
ルルディの声色が低くなり、苛立たし気に親指の爪にがじりとかみついた。
「あの忌々しいゴミ! お姉さまにベタベタベタベタ……! 本当に腹立たしいっ!!」
ルルディが思い出しているのはルルのことだろう。
可愛らしい顔が台無しになるほど憎しみで顔が歪んでしまっている。
それをペロージアが退屈そうに眺めているとルルディはハッとして、頬を撫でて表情を元に戻す。
「まぁ、いやですわ、わたくしってば……あれはもうとっくに処分したのですから忘れてしまいましょう」
(こいつが傲慢で人の世界にも興味のわかないやつでよかった……おかげで魔法の水鏡を見ようともしない。このままあの子はあちらの世界で幸せになってくれれば……この前はアリィの姿も見ることができた……あいつも生きているなら、大丈夫)
ペロージアには特殊な力があった。
夢を見るときに時々、予知夢を見ることができる。
ある程度はペロージアの心に左右されルルとアリィが妖精の世界から逃げた日から二人の未来を見ようとずっと願い続けて、最近やっと元気そうなルルとアリィの姿を見ることができた。
予知は単なる可能性、それでもルルとアリィが生きているとわかるだけでペロージアには十分だった。
そして、彼女たちが穏やかに過ごしてくれているならばそれ以上望むものはないと思った。
そんなペロージアの気持ちなど目の前のルルディは知るはずもなく、笑顔で鎖を手繰り寄せ、ペロージアの頬に口づけをする。
「さぁ、お散歩を続けましょう、お姉さま」
「気色悪い」




