92.もっと嫌な奴だったらよかったのに
「ありえない……ちょっとあり得ないんだけど!! こんなところにルルを住まわせてたわけ!?」
「こ、こんなところとはなんだ!? ちゃんとした巣穴ではないか! 広いし、寝床もある!」
「寒いしほこりっぽいし、何よりただの洞穴じゃん! 部屋という概念がなさすぎだろ!?」
集落にしばらくとどまることに決まったので、とりあえずレウスの巣穴まできたのだが、この巣穴でルルをずっと生活していたと聞かされたアリィは驚きで叫び声をあげていた。
人間族として、また妖精の世界で過ごしてきたアリィにとって、竜族の巣穴というのはあまりにも原始的で女の子のルルをこのような場所に住まわせていたと思うと頭痛までしてきた。
「あぁもう! ルルの着ている服も布に穴をあけたようなものだったから、もしかしてとは思っていたけど……このっ野蛮人ども……!」
「なにっ!? 今のは聞き捨てならぬ!? 僕たちを貶めたな! ルルの大切な人だというが許せんっ八つ裂きにしてやる!!」
「もうやめて! アリィ、なんてことを言うの! 謝って!!」
アリィとレウスがにらみ合い、大きな喧嘩が始まろうとしたところにルルが二人の間に割って入ろうとする。しかし、体格のよい二人には力及ばず撥ね退けられて尻もちをつきそうになり、反射神経に優れていたレウスがとっさにルルを抱きとめた。
「大丈夫か?」
「あっ、はい……」
二人の視線が重なって、時間が不思議とゆっくりになる。
それをアリィが憎々し気に睨んでいたのだが、見ていられずに巣穴から飛び出していってしまった。
「アリィ! 待って」
「ふん、あんなやつ放っておけ」
「すみません、本当はもっと素直でとてもいい子なのですが……」
「素直……ある意味素直かもしれんが……」
ルルはアリィが飛び出していった巣穴の出入り口を寂しそうに見つめる。
アリィとここに来る途中、ルルが今までどうやって過ごしたのかを尋ねたが「ルルをずっと探していた」というだけで、それ以上はなにも話してはくれなかった。
せっかく再会できたというのに何故だかアリィが別人のように感じて、言いえぬ不安がルルの心に現れ始めていた。
「わたし、アリィを探してきます……本当にごめんなさい」
「なら、僕も行こう」
「大丈夫です、先ほどアリィからたくさん魔力をもらったおかげでだいぶ動けるようになりましたから」
先ほど、うまく歩けないほど消耗しているルルにアリィが魔力を渡してくれたのだが、今までにないほどの量の魔力を受け取った。
しかし、それも今はルルの不安を生み出す材料となった。
大丈夫、と言われたレウスはなんだか寂しそうな顔をして「そうか……」と、つぶやいてルルから手を放した。
なんだか、ルルも寂しい気持ちがわいてきて、少しの間動けないでいたが、今はアリィを追いかけなければと巣穴から出た。
魔法で身体を浮かせて、アリィの姿を探し辺りを見渡す。
すると、意外にもすぐ近くにアリィの姿は見つかった。
何やら岸壁に向かって魔法を放っていて、大きな音とともに谷が揺れ動いた。
いったい何をしているのかと近づくと、岸壁に大きな穴を作り、今の短い時間で森から取って来た木材などの様々な材料を運び込んでいる。
「アリィ? 何をしているの?」
「ルルがここにいたいっていうのなら、それでもいいけど、あんな部屋もない場所で過ごすのは絶対に許せない! だから、安全で快適な家を作ってるの」
「家を!? す、すごい……アリィはなんでもできるのね……」
部屋ができ、家具ができ、どんどん『家』になってく穴をルルが感心して眺める。
何かができる度にルルは褒めてくれるので、アリィは頬を赤くして照れていたが、すぐに真剣に作業に集中し始めた。
「ふむ、なるほど……これが人間族の巣穴か……確かに、住み心地が違うな」
「レウスさん!? いつのまに」
「ちょっと! あんた勝手に入ってこないでよ! ここはあたしとルルが住む家になるの!」
「わかっている、少し見学させてくれ。ふむふむ、確かにこれは良いものだ」
先ほど住まいを貶されたレウスがもうすっかり怒りを忘れて、アリィの作る家を興味深く観察していた。
アリィは勝手に入り込んできたレウスにイラつきながらも、早く作業は終えてしまいたいので、レウスを無視して作業を続ける。
「この穴はなんだ? 岸壁をくりぬいて、なんの用途で使うのだ?」
「……」
「ほお、この穴は……わかったぞ、外の穴とつながっているのだな! だが何のためだ?」
「ああっ、もううるさいな! どっかいけよ! わかってんだろ、あたし、あんたのこと嫌いなんだよ!」
「そんなことはわかっている、嫌われるのには慣れているのでな! だが、お前の技術というのは見ていて面白い、そして、これを作れるお前は実に面白いやつだ」
アリィが怒鳴りつけたというのに、レウスは満面の笑みで返すものだからアリィの勢いがそがれてしまった。
家具を組み立てていく様子を、目をきらきらさせて子供の様に見つめ、諦めることなく質問し続けてくるものだから、アリィは呆れ始めてきた。
そんな二人の様子をルルは微笑ましく見つめていた。
(心配だったけれど、大丈夫そうでよかった)
ルルはせっかく動けるようになったので二人に美味しい料理を作ってあげよう、と材料を獲りに森へと向かった。




