91.吞まれるほどの絶望
アリィは人間族の国から出て、ルルを探しに竜族のなわばりである森に侵入した。
途中、何度か魔物に襲われたが魂の力を受け入れてからというもの魔力が大幅に上昇したアリィにとって、魔物は取るに足らない存在となっていた。
肉片と化した魔物の山を越えて、目星をつけていた場所へと向かう。
人間たちが自分とルルがこちらに来た日に見たという光が落ちた場所をただひたすらに目指す。
(ルル、待っててね……あの状態でも生きていていても、生命活動が終わっていても、魂さえあればまたルルを取り戻せる。今度はあたしがルルを助けるから、ルルがあたしを助けてくれたように……あたしが……絶対、あたしがルルを……)
森の草木をかき分け、広い場所に出た時、アリィはずっと追い求めていた人の姿をついに見つけた。
「ルル……?」
しかし、ルルは想像していたような姿ではなかった。その姿は最後自分が見た姿とは違い、元のきれいな身体でその瞳には絶望はなく、いつかの日のきれいな瞳、柔らかな表情だ。
(あれ? どうしてそんなに元気そうなの? あたしと離れ離れだったんだよ? ルルは平気だったの?)
さらにアリィに理解しがたかったのは、ルルが知らない男に身を寄せて立っていることだった。
(なんで? まさかあいつがルルを助けた? あんなに絶望していたルルを? あたしがルルの自己肯定感上げるためにどれだけの時間かかったと思ってるの? あたしの方がルルのこと見てたんだよ? 一緒に生きる意味だって見つけようって、一緒に……)
その男は親し気にルルに話しかけていて、ルルに向けるその視線にアリィは強い嫌悪感と憎悪を感じた。
(おいっ、あたしのルルをそんな目でみんなよ! 気持ち悪いんだよ!! キモイ、キモイ、キモイ!!)
だが、ルルもその男を見るときに、今まで見たことがない視線を時折向けていることに気が付いた時には、首を掻きむしりたくなるような感情が芽生えた。
(あ、あ、あれ? あいつ、ルルに、あたしのルルになにしたの? しらない、あんなルルしらない しらない しらない)
アタシノルルヲトリモドサナイト
「アリィ? まさかアリィなの!?」
棒立ちになっているアリィにルルが気が付き、男から離れて駆け寄ろうとするが、どたっと盛大に転んでしまった。
男がすぐに傍に寄ってルルを抱き起す。
「ルル、まだ身体が元気ではないのだぞ、急に走ろうとするな」
「ご、ごめんなさい、レウスさん……でも、アリィが……アリィが」
「あそこに立っているやつか?」
アリィは呆然としながらも足は勝手にルルのもとへと向かっていた。
歩きながら(そっか……きっと身体がうまく動かなくて、それでこいつに寄り掛かってたんだ。探したくてもあたしのこと探しになんて行けなかったんだ)と心を納得させていた。
ルルの目の前に跪いてアリィは微笑んだ。
アリィ自身、どうしてこれほどうまく『微笑む』ことができたのか不思議なくらいだ。
「なんだ、元気そうじゃん。よかった……」
「アリィ……アリィ!!」
ルルはアリィに抱き着いて、大粒の涙が瞳からとめどなくあふれ出し、「怪我はどうしたの? もうどこも痛くない? ごめんなさい、ごめんなさい」と心配と謝罪を繰り返す。
泣きじゃくるルルの背中をアリィはずっと微笑みながら撫で続けた。
「ルル、こいつがルルの言っていたアリィか……? 元気そうでよかったな!」
「ルル、こいつ誰?」
「あ、竜族のレウスさん。こっちの世界に来た時にわたしに魔力をくれて、助けてくれて……その、諦めようとしていたわたしをずっと励ましてくれた人よ。おかげでまたアリィに会えた……信じてよかった」
泣きながら嬉しそうに微笑んでアリィの頬を優しくなでる。
その手の温かさにアリィは懐かしささえ感じて、そのまま全部ゆだねてしまいたくなる。
しかし、そっとルルの手に自身の手を重ね離させ、指を交差させて固く握りこんだ。
「そっか、ルルが今までお世話になりました。これからはあたしがルルの傍にいるんで……さ、行こうルル」
「なぬ!?」
「え……あ、ま、待ってアリィ……わたし、レウスさんにまだお世話になったお返しができてないの」
「……お返し?」
「わたし、とてもレウスさんにご迷惑をおかけしたから……」
ルルがアリィとレウスを交互に見る。
ただ、レウスを見るときにほんの少しだけ、この男を求めるような、離れがたいというような視線をしているのに気が付いて、またアリィはいら立ちと嫉妬で心臓にゆっくりと爪を立たせて這わせるような感覚がした。
「…………でも、これ以上留まるのは逆に迷惑なんじゃない?」
「あ……」
「ではない! 迷惑ではないぞ! 二人とも集落に住んでしまえ。仲間が増えることはいいことだ!」
「は?」
「い、いいのですかレウスさん?」
「よい! 僕が許す!」
「こいつなんなの……? いいって言ったって、あたしとルルは……」
「アリィ、お願いもう少しだけ集落に留まらせて……」
ルルにお願いされるとそれ以上アリィは何も言えなくなり、しばらく集落に滞在することを承諾した。
レウスもルルもアリィがしぶしぶ了承するのを聞くと表情が明るくなったので、アリィはルルから視線をわずかにそらした。




