90.砂粒ひとつの希望
ルルはひたすらに泣いた後はストンと眠りに落ち、次の日の朝には暗くなっていた瞳は光が戻り、表情も見るからに明るくなっていた。
それを見たレウスは、嬉しさで飛び跳ねて、「おお! 元気になった! 元気になったぞ!」と言ってルルを両脇で持ち上げてぐるぐると回った。
「レ、レウスさん、あの回りすぎて……」
「す、すまん、つい……だが、ふふ、ふふふふ、そうか元気になったか。ふふ」
レウスはやっと止まってくれたが、笑みが漏れだしていて嬉しさはしばらく収まりそうになかった。
自分が元気になって、そんなに嬉しそうにしてくれるレウスを想うとルルの心が仄かに温かくなって、自然と笑みが移る。
微笑むルルを見て、レウスがさらに騒ぎ出してしまって、また収拾が付くまでに時間がかかった。
「あの、レウスさん……今まで本当にご迷惑をおかけしました」
「よいよい! 元気になったのならなんでもよい!」
「……いえ、ですが本当にご迷惑ばかり……レウスさんにどうお返しすればよいのか……その、デイルさんと番……になればレウスさんにお返しできますか?」
「えっ!!??」
レウスはとんでもなく大きな驚きの声を上げた。
自分がずっとルルに『元気になったらデイル従兄さんの番になって、子供を産むのだぞ』と、言い聞かせてきたというのに、どうしてかだらだらと変な汗を流して固まってしまった。
固まってしまって言葉を発しないレウスを不思議に思いながらも、ルルは言葉を続ける。
「あの、レウスさんにはもちろんお返しをしたいのですが、その、わたしやらなければならないことがあって……」
「そ、そ、そうか、それならばそっちを優先させるといい! つ、番のことはその後ゆっくり考えるのがいいぞ!」
レウスの笑顔が先ほどからぎこちない。
その理由がわからないものの、これほど迷惑をかけたというのに自分のことを優先させてまでくれるレウスの優しさに、ルルは感謝してもしきれないほどと思った。
「それで、やるべきこととはなんだ?」
「人を……探さないといけないのです……わたしの大切な人を」
「たっ、大切!? 大切というのは!?」
「アリィという人間族の女の子でわたしの家族のような人です……ですが……わたしを助けるために酷く傷ついて、生きているのか……それとも……」
ルルの言葉がつまり、瞳に涙がたまり始める。
あれほどの魔法の嵐にさらされ絶望的な状況で、アリィが無事であるとはとても考えられず、アリィはおそらく命を失ってしまっただろうと思っていたが、もしかしたら砂粒ほどでも希望があるかもしれない、それを探し出したい、とやっとレウスに励まされて心が前を向けた。
(ごめんなさい、アリィ……本当はもっと早く探しに行くべきだったのに……どんくさくてごめんなさい……)
自分の行動の愚かさに今さらになって胸が苦しくなる。
こんな身勝手な自分を許しはもらえないだろうが、今は歩みを止めるべきではないと、ぐっと涙をこらえた。
ルルの話を聞いて何故だかあたふたしていたレウスだったが、ルルが探しているのが家族だとわかると、胸をなでおろしていた。そして、うーんと首をかしげて考え始める。
「人探しか……だが、あてはあるのか? なんたって世の中はとても広いぞ」
「あて……ない、です……」
「ううむ、そうかなら今日はルルを見つけた場所にためしに行ってみるか、それで見つからなければもっと遠く、それでも見つからなければもっともっと遠くを探せばいい。僕ならば遠くまですぐに飛べるしな。姿を変えればもっと遠くまで行けるぞ!」
「…………も、もしかしてレウスさん、一緒に探してくれるのですか?」
「なっ、ち、違うのか!? だってほら見ろ、ルルはまだ立つのもやっとなくらいふらふらではないか!? 僕が一緒に行った方がいいだろう!?」
レウスの言う通りで、ルルは気力を取り戻したものの、ずっとまともに足を使っていないためにふらふらとしていて危うい。
「ですが、こんなに迷惑をかけたのに、さらにわたしのことにつき合わせるのは……」
「こんなこと今さらなんだという? よし、そうと決まればさっさと行くぞ」
「……はい、ありがとうございます、レウスさん」
ルルは遠慮がちでありながらも、にこりと微笑んでお礼をいうとレウスはまたあのぎこちない笑顔になった。




