89.必ず
26/3/19 ちょっと書き換えました
アリィはルルと離れ離れになってから、長い旅を続けてルルを探していた。
途中、『国』と呼ばれる人間族のみが集まって作り上げた集落にたどり着いた。
『国』の周りは立派な壁に囲われていて、住宅も煉瓦でつくられたしっかりとしたもので、文明の高さが見てとれる。
人間族しか入ることが許されない場所であったが、幸いアリィは人間族であったために難なく国に入ることができた。
(こんなものができているだなんて………すごく発展しているし、なにより………)
通りかかる人間族は生活も安定していて皆身なりも良く、飢えている様子もない。そしてなにより、皆気軽に魔法を使っていて、生活に魔法が浸透しているようだった。
(魔法がこんなに多くの人に……それにこの色……)
道中に掲げられている国の象徴となる旗はルルを思い出させるような紫色が取り入れられていた。
(まさか……)
アリィはなんとなく見当がついて、国の主であるという国王を訪ねることにした。
国王が住む城は厳重な警備であったが、門番に『人々を救っていた妖精のルル』のことを伝えると思惑通りすんなりと通してくれた。
アリィが出会った国王や国を作り上げた人間は、かつてルルが救った村人たちであった。
彼らはルルのもとで魔法を学び、しっかりとした生活の地盤を作り上げていくうちにその噂は他の人間族の集落にたどり着き、どんどんと人が増えていくうちにこれほど大所帯になったそうだ。
彼らは、アリィがルルの親友だと伝えると丁寧にもてなしをしてくれた。
そして、あれやこれやとルルについて聞かれたが、ルルが今は行方知れずで妖精界が大妖精ルルディのせいで大変なことになったことは伏せておいた。
その中でアリィはここら一帯の地形が書かれた地図を譲り受け、近くの森に竜族の集落があることをきいた。
そして、数週間前、何かの光が竜族のなわばりに落ちていき、魔力が乱れて魔物が騒ぎ出したことも聞き出した。
「しかしアリィ殿、竜族は排外的でなにより暴れでもしたら手が付けられないほど恐ろしい連中ですよ。本当に行くのですか?」
「はい、もしかしたら、『目当てのもの』が見つかるかもしれないので」
「そうですか、あのペロージア様とルコウ様に師事していただいた方には心配は杞憂でしたな。どうぞ今日はここでゆっくりとされてください」
「ありがとうございます」
アリィはその夜用意された部屋で一人になると、ベッドで苦痛に耐えて悶え苦しんでいた。体中から汗を拭きだし、ぎりぎりと歯を食いしばる。
(くそっ、魂どもめ……あたしの身体を乗っ取ろうとしやがって……クソが! クソがクソが!! 絶対、ルルを助けるまで、お前たちの好きにはさせないからな……)
苦しみに耐え、息を整える。
ルルのことを思えばどんな苦痛だって耐えられた。
「ルル……大丈夫、あたしが助けるから……もう少しだけ、待ってて……」
「アリィ様」
気配もなく、フードを深くかぶった不気味な男が部屋に佇んでいた。
アリィは舌打ちをして、汗ばんだ身体を起こして男を睨みつける。
「ダチュラ、勝手にあたしの断りなく部屋に入ってくんな……気色悪い」
「申し訳ございません、例のモノを入手しましたのでいち早くお届けにあがろうかと……」
男は恭しく跪き、布に包まれた大きな塊を差し出した。布は青い液体で染まっていて、布を広げると生々しい肉の塊が姿を現した。
「クラーケンの心臓にございます」
「……そりゃ、ありがと……」
「あ、あぁ……そんな、もったいなきお言葉……!」
男はアリィに対しまるで神を見るかのように心酔した視線を向ける。
それにアリィはうんざりした様子で息を漏らした。
クラーケンの心臓はアリィが魔法で異空間に保存をするとあとかたもなくなる。
その様子をダチュラはアリィの指の動きさえ逃すまいと目を広げて、じっと見つめていた。
「キモイ、そんな見るな」
「も、申し訳ございません……ですがやはりアリィ様の魔法は美しく、蠱惑的で……あぁ、目の前で見ることができてワタクシ、本当に幸せ者でございます!」
アリィは長い旅をするうちに、目的のために自分の思い通りに動く人々が必要だと気づいた。
魂の大きな力を得たアリィにとって人を惹きつけるのは簡単だった。
時には助け恩を売ることで、時には力で押さえつけることで、時には神秘的なものを見せることで。
感謝も恐怖も崇拝も全てアリィにとっては利用するものでしかない。
この蟲族の男、ダチュラは初めアリィに賊に襲われたところを助けられてから、その強力な魔力だけでなく、アリィが持つ魂を操る力に強く惹きつけられ、アリィにどっぷりと心酔し始めた。
「お前は言うことをよく聞くのはいいが、言動がキモすぎる……」
「つ、慎むように善処いたします……それでその、クラーケンとの戦いで、セフェルドが殉職いたしました」
「わかっている。セフェルドはお前の傍を離れてはいない」
「あ、ああぁ……見えていらっしゃるのですね!」
「うるさい…………セフェルド……」
死んでしまったアリィの信徒の名前を呼ぶと小さな光がアリィの手のひらに現れた。
その光を握りしめると小さな緑色の石になった。
アリィはその石をダチュラに向かって放り投げる。
ダチュラは縋りつくようにその石を受け取り、宝石を見るように恍惚とした表情でそれを眺める。
「セフェルドの魂だ……お前の魔力を高める。うまく使え」
「あ、ありがたき幸せ!」
「わかったら、さっさと次の材料を探しに行け」
「はっ!」
ダチュラはまた音もなく姿を消した。
やっと一人になり、ベッドに寝そべる。
(ふん……あたしのこれを見るためにわざと仲間を見殺しにしたな……魂の記憶でわかるっての……本当にキモいやつ……でも、それでもあたしの身体だけじゃたらない……ルルを探し出して、あのムカつく妖精を殺すために……)
(……………………ルル、会いたいよ)
目を閉じてルルのことを思い出すアリィの瞳からしずくが流れた。




