87.不誠実
次の日、レウスは突然「遠出する! 夜には帰る!」と言ってルルをデイルにあずけにきた。
デイルはさすがにすぐに死にたがるような人を置いて行かれるのは……と思っていたが、レウスがルルに「今日はおとなしくするのだぞ、デイルの言うことを聞いて、僕が帰るまで勝手に死のうとするなよ」と言い聞かせると、不思議なことにルルはこくりと頷いた。
まさかの気持ちの変化にデイルは驚くばかりで、レウスはにっこりと笑って安心して出かけてしまった。
しかし、二人きりになると、実に気まずい。
ルルはお山座りをして、デイルの巣穴の隅っこでじっと縮こまっている。
(うーん、話せるようになったと言ってもなぁ……)
デイルは長い間旅をしてきたのでいろんな人と出会って話してきたが、これほど絶望に染まってしまった人とは話したことなどなかった。
何が彼女の引き金になるかわからないと思うと、そう易々と話しかけられそうにない。
(無難……な……)
「ルルちゃん、そんなところじゃ冷たいでしょ? こっち座る?」
「……いえ」
「そう、か……」
「……」
「……」
「ごめんなさい」
「え?」
「ご迷惑をおかけして……ごめんなさい」
ルルがぽつりとつぶやくように謝罪の言葉を口にした。
デイルは驚いて何も言えなかったが、今でしか機会がないと思い正直な気持ちを話すことに決めた。
「迷惑、か……正直、君はただの妖精ではないと思っている。丸焦げで見つかったって、しかも、それでも生きているだなんて普通じゃない。君は何者?」
「…………何者でも……なかったです…………ただの不要な欠陥品です」
「…………? それって、どういう意味? 比喩的な表現?」
「そのままです……あの……あなたなら、わたしをレウスさんの目の届かないところに捨ててくださいますか?」
「…………何故そんなことを?」
「わたしの存在はいつかレウスさんをひどく傷つけて……いえ、殺してしまいます。もう、誰も巻き込みたくないです……」
ルルは大切な人たちを思い出す。
ペロージアが叫んだ声はかすかに聞こえていた。
あの冷徹さと残酷さをもつ大妖精ルルディがペロージアやルコウ、リリィにまで酷いことをしていないか不安で仕方がない。
自分を抱き締めていアリィが嵐の中で魔力が弱っていったことを思い出すと、心が引きちぎれてしまうようだった。
そして、大切な人のことを思い出すほど、やはり自分が生きていたせいであのような残酷なことが起きたのだと、より絶望が深くなる。
ルルの提案を聞いたデイルが呆れたようにため息をついた声で、ルルは思考の中から現実へと戻って来た。
「残念だけれど、それは出来ない」
「……どうしてですか? あなたはわたしがここにいることに反対していたではないですか」
「簡単だよ。レウスの気持ちを裏切れないからね」
「レウスさんの……」
「君は嘘つくの? レウスに言われただろう、いい子にしているって、勝手に死なないって……なのに、あいつとの約束を破って、そんなに君はあいつに対して不誠実になれる?」
「そ、れは……」
「ほら、迷いがある……だったらさ、楽な方に流れなよ。あいつは、心根は優しいやつだよ、まぁ、気遣いはこれからって感じだけど……いい奴だよ。確かに、君を助けたいってあいつの気持ちは一方的だけど、悪いもんじゃなかっただろう?」
「……」
デイルは、にこりと優しく微笑んで、言いたいことを言い終えたのか、椅子に深く座って本を読み始めた。
しんとした空気が流れる。
ルルはそれ以上何も言えず、レウスが帰って来るまでじっと座って待っていた。




