84.この大馬鹿者!
レウスがルルを巣穴に連れ帰ってから一晩を乗り越え、朝を迎えた。
いくら魔力を送ってやってもルルの暗い瞳は変わることがなく、『元気』にはならなかった。
「ぜぇ、ぜぇ……何故だ……これほどにまで魔力を送ってやったのに何故元気じゃないのだ……!? おいっいい加減にしろよ! 僕がこれほど頑張っているのだから、さっさと元気になれ!」
レウスがいくら怒鳴りつけてもルルはじっと巣穴の岩肌の天井を見つめるだけで、声さえ発しない。
苛立ってきたし、お腹は減っているしで、ルルを残して狩に出て行くことにした。
「くそっ、魔力を消費したせいで腹が減って仕方がない。でかい魔物でも狩るか」
魔物を狩り、その肉を魔法の炎で焼いて食べ、満腹になった頃にはすっかり日が真上に登っていた。
さすがに巣穴に戻るかとのんびりと魔法で飛んで帰った。
しかし、巣穴の出入り口を見た時、信じられない光景が目に飛び込んできて毛が逆立った。
出入り口からあの妖精が身を乗り出していて、なんということかそのまま谷底に向かって身を投げてしまった。
「うわあああああ!?」
レウスは驚きの絶叫と共に素早く飛んで、落ちる妖精を何とか掴まえた。
心臓はバクバクしていて、本当に妖精は死んでしまっていないかと何度も心臓に当たる部分に耳をあてて確かめた。
放心しながら巣穴に戻り、妖精を床に下ろした。
「この……このっ大馬鹿者!! あんなところから落ちてはさすがに死んでしまうだろうが!!!」
「……」
「本当にいい加減にしろよ! 死ぬのなら従兄さんの子を産んでから死ね! 勝手に死ぬな!! そんなの絶対に僕が許さないからな!!!」
息切れを起こしてしまうほどの勢いで妖精を怒鳴りつけ、肩を掴んで大きく揺さぶった。
しかし、妖精は揺さぶられるままにがくがくと揺れ、力を感じられず、よく横になっていた場所から巣穴の出入り口まで這うことができたなと思うほどだった。
「はぁ……はぁ……もういい、疲れた、僕は寝る!」
妖精を外套の上に転がして包み、自分は魔物の毛を毛布で包んで作った寝床に寝転がった。
しばらくうとうとして夢の中へ入ろうとしたとき、何かがもぞもぞと動く気配がした。
ハッと起き上がってそちらを向くと、またあの妖精が迷惑なことに這って出入り口を目指し始めていた。
「おおおおい!!! さっき言ったばかりであろう!!」
レウスは急いで再び妖精を抱えて、外套で再び包んだ。
「な、なんということだ、この死にたがりめ……ううむ、仕方がない」
外套でぐるぐる巻きにした妖精を抱えて自分の寝床に連れて行った。
レウスも寝床に横になり、抱き枕のようにして妖精を抱える。
「どうだ! これで動けまい! 観念してお前も寝ろ! 僕は夜通しお前に魔力を送ったせいで寝不足なのだ!」
「…………死なせて」
「うるさいっ……大人しく寝るのだ……僕は……ぐぅ」
レウスは疲れていたようで、すぐに眠りに入ってしまった。
ルルは寝るでもなく、かといって起きているのかもわからない虚ろな瞳でどこでもないどこかを見つめ、静かに涙を流していた。




