82.バラバラになる
「ふふ……嵐の中、消えてしまってください」
一仕事を終えたルルディは、冷たい表情から甘い笑顔に切り替える。
あの後も抵抗をつづけたペロージアは酷く消耗して地面に倒れているのだが、それをルルディが無理やり魔法で起こした。
「うふっ、これからたくさん仲良くしましょうね、お姉さま」
「うるさい、ブス」
「まぁ! こ、こんなに可愛いわたくしにそんな言葉遣いをするだなんて!」
ルルディは乱暴にペロージアの首枷から垂れる鎖を引っ張って、顔を近づけさせる。
口から垂れているペロージアの金色の血をルルディが舌でなめとった。
「ふふっ、これからどういう態度がふさわしいかじっくり教えて差し上げますわ、ペロージアお姉さま」
「汚い」
「ねぇ、お姉さま、わたくしずっとお姉さまと一緒に過ごすことを夢見ていましたのよ。蕾の中にいた時からずぅっと……これからは何をするにも離れませんからね。寝るときも朝目覚めるときも……うふ、わたくしに口づけだってしてもいいのですよ」
「気色悪い」
「まぁ、本当に口の減らないこと……うふふ、教え甲斐がありますわ」
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アリィが目を覚ますとそこは見知らぬ乾ききった土地で、周りには家もなく人の気配もない。
嵐にさらされたせいで全身を剣で刺されたような激痛が走り、眼球が傷ついたのか目の前は真っ暗だ。
「ゔ………ルル……ルル……どこ……ルル……ルル……」
闇に包まれた視界の中、這いつくばり、手を広げてルルの身体を探す。
しかし、ルルの身体に指先すら触れることもなく、ただ砂を舞い上げるだけだ。
「ごめん……あたし、守るって誓ったのに……守れなくてごめん……手を離しちゃってごめん……弱くてごめん……」
ぼろぼろと涙を流しながら、痛む身体を這いずらせてルルを探す。
涙を流すと、傷ついた眼を通りひどく痛む。
体力は失われていき、失意のなか今にもこと切れてしまいそうだった。
「ごめん……ごめん……」
『受け入れて……力を……私たちを……寂しい……辛い……』
魂がいつものように話しかけてきた。
いつもならずっと無視し続けていたが、今のアリィにとっては一番欲しい提案だった。
「そうか………………力……おい、お前ら……お前らを受け入れてやる、その代わり、あたしに力をよこせ……!」
『その言葉……お待ちしておりました』
アリィが叫ぶと多くの魂がアリィに集まり、次々に身体の中へと入ってくる感覚がした。
冷たく重たい衝撃と共にその魂のたちの生前の記憶だろう多くの情報が一気にアリィの頭に流れ込み、頭が割れて、中を這いずり回られて、かき回されるような痛みと不快感で、アリィは地面を転げ回る。
「う、ううああ! うああ!」
何度も正気を手放してしまいそうになったが、ルルの最後の微笑みを必死に思い出して、痛みに耐え続けた。
(ルル! ルル! ルル!! あたしのルル!!)
アリィは痛みを耐え切り、ふらふらと立ち上がる。
視界はくっきりと見えている。
「そっかぁ、はは……魂はこうやって使うのか……ふふ、なんだすごい力じゃん」
全てを理解し、自然と笑みがこぼれた。
「これがあれば……たとえルルが死んでしまっても魂さえあれば、大丈夫。探し出すから、待っててね……ルル」
アリィは本人も気づかないほど膨れ上がってしまった感情を止められず、一心にルルのことを想って歩き始めた。
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いたい……わたしには生きる価値なんてなかった……
いたい……ペロージアお姉さまがつけてくれた名前、もう思い出せない……
いたい……アリィはたくさんわたしのこと想ってくれたのに、大切なアリィを死に追いやってしまった……
いたい……ペロージアお姉さま、ルコウお兄さま、リリィお姉さま、アリィ……みんな失ってしまった
いたい……みんなと過ごした日々も全部……意味なんてなかったんだ
なのに、どうして、まだ意識を手放せないの……化け物だから?
「ふうむ? 魔力を感じる……」
「……」
「おいお前……って、とても話せる状態ではないな。うーん、そも生きているのか? 僕は治療魔法なんて器用なことはできないから、とりあえず魔力を渡す。まぁ、もしまだ生きていれば、その後は自分でなんとかしてくれ」
(だれ……? 知らない人の魔力………)
黒焦げになっていたルルの身体に魔力が巡る。
巡る魔力量は多く、黒くなっていた肌は生まれ変わって元の白い肌に戻り、手足は血肉を取り戻し、淡い紫の髪もスミレ色の瞳も元に戻る。
しかし、その瞳は絶望が支配していて、世界の何も映していなかった。
その視界の端に誰か知らない人が映った気がした。
彼はルルを見ると「おぉ!」と驚きの声を上げた。
「すごい、よく戻ったな……お前メスか………うむ、ちょうどよかった!」
彼は被っていた外套をルルにかぶせぐるぐると巻く。
しかし、ルルは何も話さず、何の反応もない。
「戻ったが……生きているよな? 死んだ魚のような目をしている」
「……」
「まぁいいか、集落まで運ぶからな」
ルルは力なくそのままその青年の外套にくるまれて、まるで荷物を担ぐように抱えられて持ち運ばれる。
「魔物狩りをしていたらまさかメスを拾うとは思わなかった。この前の疫病のせいで仲間がたくさん死んでしまってな。今集落はオスの割合が多いし、血が近いものが多くて外の血を入れなければならなくてな。お前が集落の誰かと番になってくれ」
「……」
「お前は……うーん、何族だ? オジジから外の話しを聞くのだが、なわばりからはあまり出たことはなくてな……他の種族との争いに巻き込まれはかなわんし、最近は近くに人間族が『くに』というものを作ったし……」
「……」
「おい、何か話したらどうだ? つまらんぞ」
しびれを切らした青年がむすっとしてゆさゆさとルルをゆするのだが、反応は何も帰ってこない。
青年は諦めてはぁ、とため息をついた。




