81.世界に要らない
辛いの注意です(;´・ω・)
穏やかな日々は数十年続き、その間ずっとアリィはルルディのためにと魔法と剣術に励み続け、ぐんぐん成長していった。
これからもこんな日々が続くのだとルルディもアリィも疑っていなかった。
「アリィ! アリィ! 起きて!」
「んん……なにルル、まだ明るくないじゃん」
「きょうだいが産まれるの! わたしの弟か妹が産まれそうなのよ!」
「え……?」
まだ明るくない時間に興奮したルルディに起こされて、アリィは共に魔法の花の群生地に向かった。ルルディは期待で胸がいっぱいだったが、アリィは言いえない不安が胸の中で渦巻き始めていたが、その正体がわからず、何も言えずにいた。
魔法の花の前にはすでにペロージアとルコウ、リリィの姿があった。
朝起きるのが苦手なペロージアがいることにアリィは驚き、ルルディはルコウもリリィもきょうだいの誕生に立ち会う気持ちになってくれたことに嬉しさで飛び跳ねていた。
「お前も来たのかブ……アリィ」
「今、ブスって言おうとした! ルル、こいつまたあたしのことブスって言おうとしたよ!」
「ペロージアお姉さま……!」
「ボ、ボクは言い切っていない……」
「はいはい、みんな静かに……産まれそうよ、ふふっルコウ兄さんってば緊張しないで」
「べっ、べつに、緊張なんてしてないし」
皆が見守る中、魔法の花がゆっくりと蕾を地面に垂らす。
そして、ゆっくりとその蕾は開くと一人の少女が産まれ、足を地面につけ降り立った。
魔法の花は役目を終えて、花びらが枯れ消えた。
「妹です……ペロージアお姉さま妹が産まれましたよ!」
「…………………」
ルルディがはしゃいでペロージアの服の裾を引っ張るがペロージアは喜びを見せず、じっと押し黙っている。
産まれたばかりの妹はぱちりと指をならすと、可愛らしい黒と白の服を身にまとい、真っ黒な長い髪は左右二つに結んだ。
少女は顔を上げて、ペロージアに向かってにこりと微笑んで見せた。
どこからか魔法の金色の鳥が妖精界中に飛び交い始めた。
『ご誕生ー! ご誕生ー! 大妖精、ルルディ様のご誕生ー!』
その言葉が届いた時、ペロージア、ルコウ、リリィそして欠陥品のルルは身体が凍り付いたように固まった。
アリィは神妙な顔をして、固まったみんなを見回す。
「ルルディ……ルルディって名前被っちゃうじゃないか、誰だよ名前つけた奴」
「母さんだ……」
「え?」
ぽつりとつぶやいたペロージアは、珍しく動揺していて、酷く瞳が揺れている。
「名前は存在をそのものを表し、大妖精は唯一の名前をもらい、他の者がその名を名乗ることは許されなくなり、記憶からもなくなる……なのに……どこまで……どこまでルルを苦しめれば気が済むんだ……名前まで奪って、存在を否定するつもりか」
「それってどういう」
「ペロージアお姉さま」
産まれたばかりの大妖精ルルディがまっすぐペロージアの前に来て、ペロージアの頬を愛おし気に撫でた。
「あぁ、なんて美しいの……さすがはお母さまが作り出した大妖精の中でも傑作なだけあります。蕾の中でずっとお会いする日を待ち望んでおりましたわ、ペロージアお姉さま」
「……」
「これからはわたくしがペロージアお姉さまのお傍にいます。お姉さまの孤独を癒して差しあげます。頭だってたくさん撫でて差し上げますからね。わたくしにはそれが許されていますから」
「……っ!」
「だから……」
「逃げろっ!!」
大妖精ルルディが指を振ると欠陥品のルルに向かって炎の塊が飛んだが、ペロージアがルルとアリィをまとめて風で吹き飛ばすことでその攻撃から逃れさせた。
一緒に飛ばされたアリィはルルをしっかりと抱きしめるが腰を抜かしてしまって動けず、ルルも絶望する瞳で末妹を見つめていた。
「あら、ゴミのお掃除のお邪魔をしてはいけませんわ、お姉さま」
「お前……ルルを殺そうとしたな……ボクのルルを……!」
ペロージアが怒りのこみ上げた目でルルディを見下ろす。
しかし、ルルディはうーんと可愛い顔で首をかしげていた。
「はぁ、全くもってあのゴミはお姉さまに悪影響だわ……お母さまの言う通り、早く処分しなくては」
「母さんと話したのか?」
「気になりますわよね、ずぅっとペロージアお姉さまはお母さまを一番愛して、一番憎んでいらっしゃったもの。わかっていますわ……ペロージアお姉さまにでしたら、教えて差し上げます」
「わたくしたちのお母さまは全ての命の母であり、完全なる存在でなければならない。ですが、ある日気づいてしまったのです。自分に不完全で不要な部分があると……ですので、お母さまは考えました。妖精界にその不要なものを切り離して落として消してしまおうと……ですが、まさかの事態が起こったのです。それに意識が芽生えてしまったのです。それは勝手にも生き物として立ち振る舞い、今の今までペロージアお姉さまの妹の座を乗っ取っていたのですわ」
初めて大妖精ルルディが欠陥品のルルを見た。
微笑んでいるはずの瞳からは優しさや慈悲、ましてや愛など存在していない、真っ黒な瞳だった。
「お母さまはわたくしに命じました。『あの欠陥品を消せ』と……わたくしずっと、ずぅっと憎くてたまりませんでしたの。妹でもないくせに、命というのもおこがましいのに……よくもわたくしのペロージアお姉さまを独り占めしてくれましたね!」
もう一度大妖精ルルディが指を振ると炎がルルとアリィごと包み込んだ。
「あら?」
アリィが力を失くしてしまっているルルを抱き締めて、魔法の壁をはり炎を必死に防いでいる。
しかし、炎の攻撃は激しく、アリィの魔力はどんどん消耗していく。
「ペロージア! ルコウ! リリィ! そいつを止めてよ! 長くはもたない!!」
アリィが必死に叫ぶが三人とも動いてはくれなかった。
「み、みんな……?」
「……あぁ、あれってお姉さまの飼人? このままでは焼け死んでしまいますが、まぁ、別のを見つけてください」
「ペロージア……?」
「うふふ、お姉さまから教育されていたというのに随分と鈍いのねぇ」
ルルディが冷ややかな笑みを見せると、アリィは背筋がぞくりとした。
何もなかったはずのペロージアの首には分厚い首枷が現れ、つながっている鎖をルルディが持ち、愛おし気に頬を寄せた。
「わたくしはペロージアお姉さまよりも強いの。ペロージアお姉さまはもうわたくしのもの……うふふっふふふ」
「そ、んな……」
絶望的状況だ。
激しい炎に巻かれて、今にも二人の命は終わってしまいそうであるのに、心の奥底では頼りにしていた3人がもう味方とはいえない状況だ。
(どうしようっ、どうしようっ、どうしよう!!??)
「アリィ……」
「ルルっ、だ、だいじょうぶ、だいじょうぶだから!」
「ごめんね」
「……は?」
「わたしは……やっぱり産まれるべきじゃなかったみたい……これ以上、大切なあなたを……大好きなあなたを巻き込みたくない」
「何言ってんの!? ふざけんなっふざけんな!!」
アリィがルルに向かって怒鳴りつけたが、ルルは優しく笑っていた。
そのひどく悲しく優しい微笑みにアリィの心が揺れて一瞬気が遠のいた。
その隙にルルはありったけの魔力を込めて、アリィを炎の外へと飛ばした。
「ルルーーーーーーーー!!!」
アリィの叫びと炎に焼かれるルルの絶叫が混じり妖精界に響く。
「ボクのルル……うああああああああああああ!!!」
ルルの絶叫を聞いた時、ペロージアが耐え切れずルルディを自分の杖で殴りつけようとしたが、ルルディはふわりと飛んでその攻撃を避ける。
ペロージアはルルディの自分を束縛する魔法に抵抗したために、口から血を出して膝を地面に折った。
「あら、いけませんわお姉さま、無理やりそんな抗ってはお姉さまが死んでしまいます」
「まだ息はあるっ、アリィっ! ルルを連れて逃げろ!!」
アリィは涙と鼻水を流して這いずってルルに近づき、黒焦げの塊になったルルを抱き上げてひたすらに走った。
「まだ生きてるだなんて……あぁ、なんて忌々しい化け物なのかしら。お母さまの言う通りあれを生かしてしまっては世界のためになりません」
大妖精ルルディがルルを抱いて走るアリィに向かって魔法で攻撃しようとしたとき、胸を突き上げる冷たいものを感じた。
ルコウが息も絶え絶えに剣でルルディの背中から胸を貫いた。
しかし、深い傷を負っているはずだというのに、ルルディはつまらなさそうにルコウに振り向き、ぱちりと指をならすとルコウは暴風に吹き飛ばされて地面に転がった。
「ルコウ兄さん!」
リリィがルコウに駆け寄って、傷を魔法で癒す。
ルコウもルルディに抗ったために、内側から酷い傷を負い、大量の血を口から吐き出した。
ルルディは剣を身体から引き抜き、地面に落とす。
傷痕は一瞬にしてふさがってしまった。
「まったく、せっかく作った可愛い服に穴が開きました。ルコウお兄さまもリリィお姉さまも大人しくしていてください。大妖精であるのに魔力が弱くて、弱くて……本当なら視界にいれるのも嫌だっていうのに、わたくしすごく我慢しているのですよ!」
ペロージアにはあれほど甘い顔を見せていたというのに、ルコウとリリィに対しては激昂する。
しかし、おかげで気がそがれてアリィはルルディの視界の外まで逃げられた。
アリィは走って走って、整理がつかない頭でぐるぐると考えが巡る。
(あいつルルを殺そうとした! 女神がルルのこと要らないものだって捨てた? ペロージアたちは大丈夫? これからどこに逃げればいい? これからどうすればいい?)
(ルルは……あたしをおいて、死のうとした……)
「ぐっ!!」
足がもつれてこけそうになったが、ルルを守るためにぐるりと回って背中から倒れた。
腕に抱えているルルは、美しさは見る影もなく、手足もない黒い塊だ。
こんな状態で生きているだなんて普通なら思えないがアリィはルルの魂がまだ見えていた。
(どこに逃げよう……妖精界じゃすぐに見つかる……人の世界に……でも……)
アリィはペロージアから人の世界と妖精界をつなぐ魔法は学んでいたが、いつも道は不安定になっていた。
しかし、迷っている時間はなく、人の世界につながる入り口を魔法で開いた。
「ルル……今度はあたしが絶対助けるから」
決意を固くしルルをしっかり抱きしめて飛び込んだ。
人の世界に続く、霧がかった世界が広がる。いつもは不安定でもまだぎりぎり歩ける道を感じられるはずなのに、今は嵐のように風が吹きすさび、身体がちぎれてしましそうなほど激しい。
どこからかあの大妖精ルルディの笑う声がする。
(くっそあいつ……ルル! 絶対離さないから! 絶対! ぜったい……)
アリィの腕は激しい嵐の中、力を失っていき、そして、ついにアリィの腕からルルは離された。
「ルルーーーーーーーーーーーー……」
アリィの叫びは虚しく霧の中に吸い込まれてしまった。
続きは今日の1時間後くらいにだします




