79.反逆
時は流れ、アリィが来てからすでに1年がたっていた。
ペロージアの魔法の授業は相変わらず厳しいものだったが、アリィの持ち前の吸収力と負けん気の強さ、そして自分自身知らなかった新しいことを学ぶことの楽しさでペロージアの授業に食らいついていた。
ルルディはそんな彼女を献身的に支えてきた。夜中まで勉強するとき夜食が必要なら作り、怪我をすれば治療をし、ペロージアが言っていたわかりにくいことをかみ砕いて教えてくれたりもした。
「アリィは育ちざかりなのね、すっかり背が抜かされちゃった」
「ルルのごはんはとっても美味しいから、いっぱい食べちゃうんだよ。それに最近ルコウにも剣術教えてもらってるから、余計におなか減るし。みてみて、筋肉ついたんだ」
「ふふっ、すごいね……魔法もできて、剣術もできて、すっかり一人前だね」
ルルディが少しだけ寂しそうに微笑むと、アリィは訝し気な顔をしてジトっとルルディを見る。
「どうせルルのことだから、一人前になったらわたしなんかいらなくなっちゃう!とか考えてるんでしょ?」
「えっ、なんでわかったの?」
「だってずっと……ううん……もしかして、あたしが他の人たちみたいに人の世界に戻ると思ってる?」
「……違うの?」
アリィはぶすっとして、不安げな顔をするルルディの鼻をきゅっとつまんだ。
「あたしはルルの傍にいるって決めたの! 何があっても傍にいるって……だから、そんな心配いらない! わかった?」
「ふ、ふん……」
「へへっ、変な声」
アリィは無邪気にまぶしく笑う。
その笑顔にはあの頃の哀れな少女の面影は見られず、ルルディは胸の奥底がじんわりと暖かくなった。
ペロージアがゆったりと二人に向かって歩いて来た。
アリィは無茶ぶりをさせられるのではと、反射的に身構えてしまう身体になってしまったため、背丈はすっかり抜いたというのに縮こまってルルディの後ろに隠れた。
「ルル、アリィ、おつかいに行け」
「はい、ペロージアお姉さま。何をすればよいですか?」
「ま、まぁ、いいケド(ルルと一緒!)」
「これ、リリィに届けて」
ルルディに手渡されたのはいろいろな花の種が入ったバスケットだった。
「え? こんなんまたリリィが来たときに渡せばいいじゃん」
「駄目だ、今すぐ、魔法を使わず、歩いて、リリィの家に行け」
「はぁ!? 魔法もなし!? めんどくせぇ」
「アリィ、お散歩しながらも楽しいよ。それにアリィといっしょだともっと楽しい」
「確かに! んじゃ、行ってくる」
ルルディに諭されると一瞬で気持ちがくるりと変わり、アリィは上機嫌でルルディとともに花畑にあるリリィの家に向かった。
二人の姿が見えなくなるまでペロージアが見守っていると、後ろからルコウが姿を現す。
「そろそろ来るぞ、二人が帰ってくるまでに終わらせるか」
「はぁ、少し疲れるなぁ……」
ペロージアは螺旋状の杖をどこからともなく取り出した。
「さて……元老院のジジババども、ボクたちが相手してやろう」
ペロージアが振り返ると人の姿をした光でできた塊が5つ突然現れ、ペロージアたちを囲んで佇んでいた。
彼らの声が直接頭に響き、不快感が頭の中で反響する。
『ペロージア、再三の命令をきかないばかりか』
『我ら女神より最初に産み出されし元老院に対する侮辱』
『いくら女神より多くの魔力を授かった傑作とはいえ見過ごせぬ!』
『今すぐにあれを処分するのであれば、罰は軽くなるぞ』
『さぁ、今すぐにあれを処分せい!』
元老院に命令されるがペロージアはどこ吹く風で、ぼーっと空を眺めているし、ルコウもほへーっとした表情で耳をほじって聞くつもりはないようだ。
するとルコウがあっ、と思い出したようにつぶやく。
「なぁ、毎度思うけどこいつら話す言葉あらかじめ決めて5等分してんのかな? そう考えたら阿保っぽくね?」
「くふふふ、確かに。非効率的なこいつららしいともいえる」
『なっ』
『また我らを侮辱するか!?』
『それ相応の覚悟があるのだろうな!』
『我らの……』
「あー、あー無理に話そうとしなくていいから! やるならさっさと、できるだけ一発で済むようなドデカい魔法で頼むぜ」
全身光でできているため表情がわからないが、ルコウの挑発にまんまとのり苛立ち怒っているのが感じ取れる。
『な、何たる無礼!』
『我ら元老院は女神に作られし最初の大妖精であるぞ!』
『調子に乗りおって、ひよっこが……その命をもってこの罪を償え!』
『女神にその命を返すがいい!』
『女神より授かりしこの魔力で消滅すること、光栄に思え!』
元老院たちがその膨大な魔力をためると、禍々しい魔力の玉が作られた。
普通の人ならばこのような魔法を目の前にすれば死を覚悟するだろう。
そして、いくら妖精族で1番魔力の強いペロージアといえど、元老院たち全員の魔力を同時にぶつけられれば無事では済まない。
しかし、目も開けられないほどまぶしい光に包まれる直前の一瞬、ペロージアはにやりと口角を上げる。
『『キエエエエーーーーー!!』』
元老院たちが放つ膨大な魔力の光線が一斉にペロージアとルコウに向かう。
しかし、その光線はペロージアとルコウにたどり着く直前、ペロージアの持つ杖の先の宝玉に一度吸収され、元老院たちに向かってに反射した。
強大な魔力は光でできている元老院たちの身体を悲痛な断末魔とともに焼き尽くし、辺り一帯は大きく地面がえぐれ地形が変わってしまった。
「ははっ、あーあー、ついに元老院たちをやっちまったよ。でも聞いたかあの断末魔、今までのことがチャラになるくらいスッキリしたぜ! にしても、あいつらホント馬鹿だよなルルディが産まれてからどんだけたつと思ってんだよ、こうなるってわかってんだから、対策してるっつーの」
「対策したのはボクだ」
「あいつらの攻撃を誘導するのも手伝ったし、なによりその杖作る材料、オレがせっせと集めてやっただろうが! すっげえ大変だったんだぞ! ユニコーンの角とか、クラーケンの心臓まで!……必死に説得したり、倒したりさぁ」
「ボクは疲れた。寝る」
「お、おい! このえぐれた地面どうすんだよ? ルルたちにバレるぞ」
「ルコウが戻すに決まっている」
「はぁ……ったく、しゃあねぇな」
ペロージアはくあっとあくびをして、家へと帰ってしまった。
残されたルコウはえぐれてしまった地面を前にため息をつき、魔法で直し始めた。




