78.欠陥品ルルディ
次の日、朝ご飯を作りにアリィの住む家にルルディは向かった。
ただ、どんな顔をして会えばいいのかわからず、ちょうど炊事場で鉢合わせた時にはお互い実にぎこちない顔で「おはよう」と挨拶してしまった。
「あ、あのアリィ……」
「ごめん……」
「え?」
「よく考えたらおかしいよね、あたしがルルを怪我させたのに、あんなふうにキレるなんて……ごめん、いろいろ、怪我をさせたのも、あんなふうにキレたのも、酷い言葉、言ったのも……ぜんぶごめん」
「ううん、わたしのほうこそ……アリィのこと嫌な気持ちにさせちゃって……あれから、ずっと考えてたの、どうしてアリィが怒ったのかなって……でも、ごめんなさい、まだわからなくて」
「……そっか……」
気まずい沈黙が二人の間に居座った。
「ようっ! 元気そうだな!」
二人の間にひょっこりと現れたのはルコウだった。
全く空気が読めていないのだが、アリィは逆にこの何も考えていなさそうなルコウの行いに少し助かったと思った。
「ジジイ、何しに来たんだよ?」
「そんな猫のように喚くな。人の世界に行って食材を取って来たから届けに来たんだよ」
「まぁ、ちょうど朝食を作るところだったんです。ありがとうございます、ルコウお兄さま」
ルコウは袋いっぱいに果物や野菜、そして葉っぱに包まれた肉を机に広げる。
ルルディはテキパキとそれぞれによい保存方法で食材をしまっていく。
それをアリィもいっしょになって手伝った。
「なんだ、喧嘩したって聞いたけど、仲いいじゃないか」
「いえ、その喧嘩というわけでは……」
「ルコウには関係な……いや、ある。後で話がある」
「お、なんだ? このルコウ兄さんになんでも聞けよ!」
「じゃあ、朝飯食ったらな(ペロージアが起きる前にルルディのこと聞き出そう)」
「おう、いいぞ!」
アリィは決意を胸に、手早く準備して朝食を食べ、ルコウと一緒にでていった。
残ったルルディはなんだか言いえない不安を胸に抱えつつ、普段通り魔物の世話をしに行った。
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「ふぅん、ひな鳥がルルなしで話とはどうした? ナイショ話ってやつか?」
「ひな鳥言うな! ルルに聞かせたくない話だからだ……ルルが欠陥品ってどういうこと?」
ルコウが明らかに驚いた様子で目をぱちくりとさせた。
そして気まずそうに頭をぼりぼりとかいて、うーんと考え始めた。
「まぁ、別に隠すことじゃないしな……わかった、説明してやる」
ルコウは少し考えてはいたが、わりとすんなりと話す姿勢に移行してくれた。
それを見るとつくづくペロージアから『お前には資格がない』と言われたことがただの言いがかりだったのかと腹立たしく思えた。
アリィがルコウに連れてこられた場所は、妖精界の片隅にある魔法の花がある場所だった。
花は大きな蕾を空に向けて掲げ、時折地面が花に向かって波打っているのが足裏から感じられる。
ルコウはその巨大な花を前にして、苦々しい表情でじっとその蕾を見つめていた。
「これは魔法の花。いくつかある中でこの花はけっこう長く続いていててな……ペロージア、オレ、リリィは、母である女神が作り出したこの魔法の花から膨大な魔力を持って産まれた『大妖精』と呼ばれる存在。そんなかで同じ花から産みだされたオレたちは言わばきょうだいみたいなものだ」
「ルルは? ルルはお前たちのことを兄とか姉って言って慕っているだろうが」
「あの子は……オレたちとは少し……いや、全く違う存在だ……あの子は……大妖精として上手く産まれてこられなかった、いわば欠陥品。それでも、オレたちはルルディのことを愛している、だからきょうだいとして扱うと決めたんだ」
「は? 理解できねぇ、お前もペロージアもルルのこと欠陥品、欠陥品って! そのくせ愛してるってなんなんだよ!?」
「オレたち大妖精の存在意義は魔力が全て、高い魔力を持つ大妖精はそれだけで意義があり、魔力が低いものはその存在すら許されない。それがオレたちに植え込まれている本能だ」
「意味わかんねぇ……お前たちいつも言ってたよなぁ? ルルは可愛い妹だって? それなのに、裏ではそう思ってたのか!? ルルを見下していたのか!?」
「言っただろう、隠すことじゃないって。欠陥品であることはルルディ自身がわかっている」
「は……?」
「オレたちは産まれる前からこの花の根を通して世の中の情報を得る。ルルディは産まれた瞬間、いや蕾の中にいた時からずっと自分は大妖精として生まれるべきではない存在だと、欠陥品であるというのをすでに知っているんだよ」
ルコウの言葉を聞いた時、今までのルルディの発言の理由がハッキリとわかった。
わかった瞬間から、頭の中でずっと、重たい鐘が鈍く鳴り響くような衝撃がずっと全身にとどまっているような感覚がして気持ちが悪い。
「なんだよそれ……なんで、そんなこと……なんでお前ら当り前みたいに言ってるんだよ? ルルは……ルルは欠陥品なんかじゃない!! だって、だってルルは…………お前らルルの気持ち考えたことあんのかよ!? 自分が産まれちゃいけない命だって知りながら産まれるって……そんなの、ひどすぎるじゃんか!!」
アリィは悔しさと困惑と、そしてどうしようもない苦しみの混じった涙をぼろぼろと落とす。
人間である自分と妖精では感覚の違いに大きい隔たりがあることを思い知らされる。
そして、それはアリィとルルディとの隔たりでもあった。
「だが、これは事実でオレたちは本能的にルルディに対して嫌悪感を持ってしまう。けれど、愛情だって持っている。あの子はいい子だ。だからこそ、ペロージアやオレ、リリィがこまめにルルディに魔力を渡して存在を維持させている」
「魔力を渡す? もしかして、ペロージアがやたらとべたべたルルに触ってるときか」
「お、魔力の流れが見えたのか。そうそう、そういうときだよ。そうでもしないと消滅してしまうほど、あの子の存在は脆く淡い」
「だから、あのババアはあたしに魔法を……? 魔法も使えない奴にはこの話を聞く資格もないって? いや、あいつがそこまで考えているのか……でも……魔法を学ぶことで、この呪いを使いこなすことで、あたしがルルを救えたら……」
アリィは何かをじっと考えだして固まると、ルコウはばんばんとアリィの背中を強めに叩いた。
「ま、まだ弱っちいひな鳥には何もできないだろうが、ルルのいい友達でいてやってくれよ!」
「一言余計だ……言われなくたって、あたしはルルの傍にいる(できるなら、ずっと……)」
ルコウは説明が終わったら、さっさと自分の家に帰ってしまった。
アリィもそろそろペロージアが起きてしまうだろうと思い、急いで家に帰って顔を洗い、ペロージアの家へと向かった。
ペロージアがゆったりと起きてきて、くあっとあくびをしている姿が見えた。
「おいっ、クソババア!」
暴言から始まる呼びかけに、ペロージアはアリィを魔法で地面に押しつぶすことで答えた。
「ってぇ、また鼻打ったじゃねぇか!」
「おはようブス、今日もブスだな、さらに土まみれだ。汚い」
(お前がやったんだろうが……!)
アリィは立ち上がり、身体の土埃を払った。
そして、ペロージアをまっすぐに見つめる。
「あたし、本気で魔法を学びたい」
「昨日は本気じゃなかったのか」
「ちがっ、これは決意表明だ! あたし、ずっと呪われた子だって言われて、生きていちゃダメなんだって思ってた。でも、ルルが全部あたしの過去を切り落として、希望を見せてくれた。だから今度はあたしがルルの希望になる。ルコウから聞いたよ、ルルのこと……でも、そんなの吹き飛ばすくらいあたしが強くなってルルのこと守れるようになる!」
ペロージアがアリィの話をじっとただ静かに耳を傾け、大人しく聞いていた。
そして、まっすぐにアリィを見て、視線をそらすことがなかった。
「なら、さっさと始めるぞ……来い、アリィ」
「!! う、うん!」
ゆったりと歩くペロージアの後ろをアリィがついて行く。




