75.怒る理由
家で休めと言われたもののアリィとペロージアのことが気になって、ルルディは全く気が休まらなかった。ずっとそわそわして動き回り、家の掃除をしたり、お菓子を作ったり、何かしらをしていたが、日が落ちるころには結局やることがなくなって、ただじっと窓から外を眺めていた。
(まだペロージアお姉さまが帰ってこないってことは、アリィも……大丈夫かな……)
妖精界の夜は静かで虫の声も聞こえない。
ただ静寂のみが夜の暗闇に横たわる。
世界の静けさとは反対にルルディの頭の中はとても騒がしかった。
『ちゃんと怒ってよ! 痛かったって、むかついたって、ちゃんと怒ってよ!!』
アリィの涙を目にいっぱいためて必死に叫ぶ姿が浮かぶ。
ルルディは自分の至らなさがアリィを怒らせてしまったのか、はたまた別の理由なのか考えても考えても答えがでずにいた。
(どうして、アリィはあんなことを……?)
コンコン
(ペロージアお姉さま? じゃないよね。だってお姉さまならそのまま入って来るもの……もしかして、アリィ?)
玄関扉がたたかれて、ルルディは訪れた人物を迎えようとしたが、扉の取っ手を持つ手が震えて、なかなか開くまで動けなかった。
(もしアリィだったら? どんな顔して会えばいい……?)
「おーい、ルル、いねえのか?」
聞こえてきたのはルコウの声だった。
ルルディはハッとして、扉を慌てて開けた。
ルコウとリリィが訪ねてきてくれたようだが、二人ともルルディのぎこちない笑顔をみて眉を八の字にする。
「お、何だいるじゃん。どした? ペロージアになんかされたか?」
「いえ、何も……お待たせして申し訳ありません」
ルルディは扉を開いてルコウとリリィを招き入れた。
ゆったりとくつろげる談話室で、3人はソファに座って向かい合う。
「あら、ペロージア姉さんはまだ帰ってきていないの?」
「はい、あの……ペロージアお姉さまはアリィに見どころがあると言って魔法を教えるそうで……」
「はぁ!? あ、あのペロージアが誰かに魔法を教える!? おいおいおい、今から雪でも降るんじゃないか?」
「あのペロージア姉さんがねぇ……どういう風の吹き回しかしら? それで夜になっても帰ってきていないのね。まぁ、二人で楽しく過ごしちゃって、これじゃあルルが寂しくなっちゃうわね。今日は私の家に来る?」
「ありがとうございます、リリィお姉さま。でも、ペロージアお姉さまを待つことにします……」
「ねぇルル、やっぱり元気がないのじゃない? 何かあった?」
リリィが心配そうにルルディの顔を見つめると、ルルディはどうしていいのかわからない様子で俯いた。
「アリィを嫌な気持ちにさせてしまいました……でも、どうしてアリィがそんな気持ちになったのかわからないのです……」
「いやな気持ち? あのべったりひな鳥がルルにそんな気持ちを抱くなんて考えづらいが、何があったんだよ? 兄さんたちに話してみ?」
「そうよ、話してみて見えてくるものもあるかもしれないわ。まぁ、ルコウ兄さんはこういうのは苦手だから。聞くしかできないけれど」
「そ、そんなことはないぞ。びしっとその悩み解決してやる!」
「ありがとうございます、ルコウお兄さま、リリィお姉さま……」
ルコウとリリィが優しく微笑むと、ルルディは二人の優しさに泣きたくなってしまうほどだった。
ぽつぽつと今日あったことを話し始める。
アリィに魔法を教えた時に自分が魔力を誘導させるのを失敗してしまい魔力暴発が起きてしまったこと、その時に死にかけてしまったがペロージアが直してくれたこと、しかしそれに怒ったペロージアがアリィを殺そうとしたこと。
そして、自分がアリィに不快感を抱かせてしまったこと。
ルコウとリリィはルルディの話を静かに最後まで口を挟むことなく聞いてくれた。
ルコウは、んーと首をかしげてわかっていない様子だったが、リリィは何かわかったのかうんうんと頷いていた。
「アリィはわたしがどうして怒らないのかと、言っていましたが……わたしには怒る理由がわかりません」
「なるほどねぇ、ルルの視点からということを考えて……なんとなく想像がつくわ、アリィが怒った理由が」
「ほ、本当ですか、リリィお姉さま!」
「でも、これは……うーん、どう伝えればいいのかしら。たぶん、私の口から答えを言っても今のあなたでは納得しない気がするわ」
「???」
「言えることは、アリィはあなたのことが大好きってところかしら」
「え? でもわたし、アリィに嫌われてしまったんじゃ……」
「まさか。とても好きだからこそ怒ったのよ」
「好きだから、怒る?……………………もう少し、考えてみます」
「そうね、それがいいわ。それもいいけれど、一番はちゃんとアリィと話すことよ」
「……はい、ありがとうございます、リリィお姉さま、ルコウお兄さま」
「おうっ、また悩んだら話くらい聞いてやるからな!」
「本当にルコウ兄さんは話を聞くだけだけどね」
「そんな、こんなわたしのために時間を割いていただけるだけでも嬉しいです!」
ルルディはとびきりの笑顔で感謝の気持ちを伝えているが、その裏には自分が欠陥品であるということの引け目が感じられ、それを本人が受け入れてしまっている。
リリィは不安を抱きつつも、ルルディとアリィを見守ることに決めた。




