74.気味が悪い
※流血注意です(;´・ω・)
「そばかす、目つき悪い、相変わらず本当にお前はブスだな」
出会ってすぐ、ペロージアがアリィに対してとんでもない暴言を吐いてきた。
アリィはアリィとしての新しい生を受けてからというもの、生きる活力を取り戻したとともに、ルルディにべったりになった。
どこに行くにもルルディと一緒で、まるで生まれたてのひな鳥の様でかわいいとルルディは愛おしく思っていたのだが、ペロージアは面白くなかったようで、こうやってアリィに絡むようになってしまった。
しかし、アリィは気性が荒くこんなことで黙っていられる性格ではないようで、ペロージアに食って掛かる。
「うるせぇクソババア、若いあたしに嫉妬してんの? 皺が増えるぞ」
「ボクの美しさが衰えるわけがないだろう? 目つきが悪いだけじゃなくて、目も悪いようだ」
「もうっ、ペロージアお姉さまもアリィも仲良くして! どうしてそんなに喧嘩するの?」
ルルディの最近の悩みは二人がこうして喧嘩する事なのだが、その喧嘩の原因がルルディの取り合いであることまでは気づいていない。
そして、この喧嘩はルルディが仲裁に入っても残念ながら全く収まらない。
ペロージアがひょいとひとさし指を下に向けると、アリィが地面に向かって顔面から倒れた。
鼻を強く打ったようで、鼻血が垂れてしまっている。
「うあああん……ルル、血がでちゃった……痛いよぅ……」
「あぁ、可哀そうに……見せて……お姉さま! アリィは人間なのですよ! このような魔法をかけては、死んでしまいます!」
「こんなことでは死なない」
「あぁ、めまいまでしてきた……」
「大丈夫!? さぁ、こっちに来て……治癒魔法をかけるから」
ルルディがアリィを起き上がらせ、治癒魔法をかけるために近くのペロージアとルルディが住む家へと肩を貸しながら向かう。
アリィが向かう途中後ろをちらりと向き、ペロージアに対し勝ち誇った顔でにやりと笑い、あかんべーと舌をだした。
ペロージアはそれにまた苛ついて、もう一度魔法でアリィを地面に押し付けた。
ルルディの悲鳴が聞こえたが、ペロージアはかまわず散歩に行ってしまった。
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ルルディがアリィの鼻の怪我を魔法で治し、落ち着く香りのするお茶を入れてくれた。
「ペロージアお姉さまがいつもごめんなさい。本当はもう少し態度が柔らかいのだけれど……どうしてアリィに対してだけこんなふうに接するのかしら……」
「ルルは悪くないよ。あの人の性格が終わってるだけ」
「そんなことないわ。お姉さまはとてもお優しい方よ」
「絶対優しくない! ルルの優しい判定広すぎないか?」
「優しいよ……だってわたしを……ううん、なんでもない……そうだ、お菓子を作ってみたの。食べる?」
「食べる!」
「ふふっ、わたし、妹や弟がまだいないのだけど、もしできたらアリィみたいな子がいいな。とっても可愛いもの」
アリィはルルディに可愛いといわれると、頬を真っ赤にしてしまい、それをみたルルディはくすりと笑ってアリィの頬を撫で、嬉しそうに作っておいた焼き菓子をお皿に盛り付け始めた。
アリィはルルディに過去の自分を殺してもらってから、つきものが落ちたかのように心が軽くなった。
ルルディとたわいのない会話をよくするようになり、ルルディが世話をしている魔物の世話の手伝いまでしてくれる。
あれほど絶望に打ちひしがれていた少女が今では少しだけ笑えるまでに回復した。
ルルディはそんなアリィの変化を嬉しく思い、温かく見守って来た。
ただ、アリィは「自分は呪われた子だ」と言った理由をルルディには話そうとはしなかったし、ルルディも無理に聞き出すことはしなかった。
今はアリィに笑顔が戻り、生きようと思ってくれているだけで充分だった。
「ねぇ、アリィは魔法に興味がある?」
「ルルが治療してくれたときのみたいなの?」
「うん、他にもいろいろできるのよ。火をつけたりとか、空を飛んだり、水を生み出すことだって」
「ルルは、あたしがそれをできるようになったら嬉しい?」
「えぇとても、だって生きるのに必要なことだもの」
「じゃあやる!」
「よかった、じゃあ少しずつ練習してみましょうね」
アリィはルルディに対しては本当に無邪気な子供で、好奇心旺盛でありそして純粋であった。ルルディはそんなアリィに対し、妹に向けるような愛情をもって接していた。
魔法の練習をするために、二人は外の草原に出た。
今日も妖精界は穏やかな風が吹き、程よく暖かだ。
「はぁ、今日もいい天気……といっても、妖精界は人の世界みたいに空が変わることはないのだけどね、あはは」
「……妖精界って、なんか気味が悪い」
「え? どうして?」
「なんか……整えられた環境で、争いもなくて、作られた穏やかさみたいな」
「うーん、アリィはときどき難しいことを言うのね」
「別に、思っただけ……ねぇ、魔法のやりかた教えてよ」
「えぇ、まずは魔力を感じとるところから……それから、簡単な……風を起こす魔法に挑戦してみましょう」
「うん!」
ルルディは丁寧に身体に宿る魔力をどのように感じとるのかを説明すると、アリィは魔法の才能があるようですぐにコツを掴んで、次の段階に進むことになった。
「すごいすごい! もうコツを掴んじゃった。アリィは魔力を扱う才能があるよ!」
「えへへ……そ、そう?」
「じゃあ、今度はそよ風を起こしてみよう。ゆっくり呼吸をして全身に魔力を巡らせて、それからゆっくり手に魔力を集中させるの。手は、そう、これくらいに開いて包み込むようにして……初めてだから、焦らずにやろうね。わたしが魔力を誘導するから……」
ルルディがアリィに手を重ねて教えてくれる。
その時、本当に悪気なく、アリィにふとある考えが浮かんだ。
(そよ風とかそんな弱っちそうなのじゃなくて、ものすごい風が起こせたら、ルルってばびっくりするかな? びっくりして、またすごいって褒めてくれる?)
アリィの気持ちに答えるように、耳元で何かがささやく。
『あなたに……力を……我々を受け入れて……寂しい』
アリィが強く強くなるようにと願って魔力を込めると、予想だにしていないとてつもない暴風が巻き起こり、ルルディの身体は悲鳴とともに簡単に吹き飛ばされてしまった。
「ルル!?」
アリィは悲痛な声で叫び、ルルディのもとに全速力で駆け寄った。
暴風で飛ばされ、地面に落ちたルルは酷い状態だった。
暴風で舞い上がったときに石で傷ついたのだろう全身切傷だらけで、左足は暴風による空気の圧でざっくりと切れて辛うじてついている。
ルルディは口から妖精特有の金色の血を吐いていて、血が喉でたまっているのだろう上手く呼吸できず、ごろごろとなっている。
「ルル! ルル! しっかり!! どうしよう、あぁ、ちがうのあたし……」
「どけブス」
どこからかペロージアが現れ、アリィを思い切り蹴とばした。
アリィは1mほど吹き飛んだが、文句を言えるほどアリィの心は落ち着きなどなかった。
「ルルディ、しっかりしろ……」
ペロージアがルルディに手を掲げると、ルルディは薄い光の膜につつまれて、みるみるうちに傷跡も取れかけていた足もくっつき元通りになった。
「ごほっ……げほげほ」
「血は外に出せ」
ペロージアが背中をさすると、ルルディの口から金色の血がどばっと吐き出された。
しばらく呼吸をするとルルディは落ち着きを取り戻したようだった。
「は、ぁ……ありがとうございます、ペロージアお姉さま……お手を煩わせてしまい、申し訳ございません」
「これくらいはいい、許す」
「ありがとうございます」
ペロージアが無表情でアリィの目の前に来ると、何もないところから彼女の背丈ほどあり、頭には大きな丸い宝玉がついている螺旋形状の杖を取り出した。
「ペロージ……っ!」
ペロージアは大きく振りかぶり、その杖の一番硬い宝玉がついている部分でアリィの顔面を殴りつけた。
アリィは先ほどよりも大きく吹き飛ばされ、口の中を切り血が流れ、痛みで頭を手で押さえている。
「お前……ブスなうえに、ボクのルルディを殺すつもりか?」
「お姉さま!」
「ころ、す?……え……ただ……あた、しは」
「ルルディは欠陥品なんだぞ! あんな魔力をぶつけられたら死んでしまうことくらい馬鹿でもわかる!!」
「お姉さまっ、もうやめて! アリィはそんなこと知らないの! 知らなかっただけだから!」
ペロージアがアリィに対してみせことがないほどの怒りをぶつける。
見かねたルルディが急いでアリィに覆いかぶさった。
「アリィは悪くありません。わたしがちゃんと魔力を誘導してあげなかったから、魔力暴発がおきてしまったのです。アリィには悪気なんてなかったのです!」
「悪気のあるなしじゃない。あるのはルルを危険にさらしたという事実だ。ルルのために生かしておいたが、もういい、別のを見つけろ。それは処分する」
「しょぶんって……だめです! やっと、アリィは新しい人生を歩み始めたのですよ! やっと一歩踏み出せたのに……」
「ボクはそれを処分するといっている。ルルディ、ボクのいうこと聞けないの?」
「き、きけません……たとえお姉さまでも、それだけは……」
「……きもちわるい」
ルルディとペロージアの言い争いを痛みに耐えつつ聞いていたアリィが静かに声を発した。
頬を押さえつつ、口から赤い血を流し、かばっているルルディの手を潜り抜けて距離をとる。
「わけわかんない……ルルディのこと、全然わからない!!」
「ア、アリィ、どうしたの? 大丈夫、ペロージアお姉さまは怒っていらっしゃるけれど、ちゃんとわたしがお願いするから……」
「だからなんで!? 今、あたしはルルを殺しかけたんでしょう!? なんでそんなやつ助けようとするわけ!? あたしだったら、さっきみたいなひどい目にあわされたら全員同じ目にあわせてからぶち殺してやるのに!!」
「アリィ、落ち着いて……わたしはほら、この通りペロージアお姉さまが直してくださったから、それにあれはわたしが悪かったの……わたしが……ちゃんとしていなかったから……」
「だいたいさっきからルルのこと欠陥品って!? それにもちゃんと怒れよ!! 貶されてんだぞ!!」
「それは……本当のことだから、わたしは欠陥品でペロージアお姉さまの慈悲で存在できているだけだから」
ルルディが困ったように微笑む。ルルディにはアリィもペロージアも責める感情が全くない。
アリィにはそれがわかってしまった。
そして、胸に苦みのある吐き気が込めあげるとともに、どうしようもない苦しみが込められた涙があふれる。
「ちがう、ちがう、ちがうっ! そんなわけないっ! それでいいわけない!! ちゃんと怒ってよ! 痛かったって、むかついたって、ちゃんと怒ってよ!!」
「……お、こる……どうして? 怒るほどの価値はわたしにはないのに……?」
「あるよ!! なんでそんなこと言うの!?」
「……ご、ごめんなさい、わからないわ……」
「おい、ブス」
ペロージアが珍しく黙って二人の会話を見守っていた。
そういえば自分は殺されるかどうかの瀬戸際であったということを思い出し、ゆっくりと歩いて近づくペロージアから後ずさる。
すると、ペロージアは今までに見せたことがない、アリィからすれば邪悪に感じる笑みを浮かべた。それはある意味死よりも恐ろしい予感がして、アリィの背筋がぞくりとする。
「お前……なかなか見込みがある。気が変わった、生かしてやる」
「な、なにを企んでる……!?」
「魔法をボクが教えてやる」
「は?」
「喜べ、ボクはこの妖精界で1番の魔法使いだ」
「ペロージアがあたしに? い、いやだっ! ぜぇったい嫌だ!!」
「お前に拒否権などない」
ペロージアがひとさし指をひょいと上に向けると、アリィが空中に浮かんで、自由が利かなくなった。アリィが反抗してじたばたとしてもくるくると宙で回転するだけだ。
まだ傷が癒えていないアリィを連れて行こうとするのを心配して、ルルディがペロージアとアリィを交互に見つめる。
「で、ですがお姉さま、アリィはまだ傷が……」
「あとで治してやる。それまでは痛みで苦しませる。それで今回の罰にする。ルルは家で休め」
「ですが……」
「ボクは休めと言っている。言うこと聞けない?」
「は、はい……休みます」
「ん、いい子だね」
ペロージアがルルディの頭を撫でて、額にキスをする。
そして、挨拶のように「ルル、愛しているよ。さぁ、おいき」とさらりと言う。
ルルディは心配そうにアリィを見るが、アリィが気まずそうに視線をはずすと、ルルディは寂しそうに家へと帰った。
ルルディの姿が見えなくなってから、アリィは仮面を脱いだかのようにペロージアを憎しみであふれる瞳で睨みつける。
「おい、クソババア……さっき、ルルのこと欠陥品だって言ったくせに、その口で愛しているとかよく言えるな」
「どちらも事実だ。ルルディが欠陥品なのもボクがルルディを愛していることも」
「なんなんだよ……くそ、絶対ルコウとリリィにお前がルルのこと欠陥品呼ばわりしてたこと、チクってやる」
「ルコウもリリィもルルディが欠陥品であることは知ってる」
「は? どういうことだよ? 仲いいきょうだいのふりして、ルルのこと欠陥品呼ばわりして、虐めてんのか!?」
ペロージアがじろりとアリィのことを睨む。
アリィはペロージアの冷たい視線に喉の奥がきゅっとした。
「お前は何も知らない。ルルディが背負わされたものも、なにひとつ」
「じゃ、じゃあ教えろよ!」
「知る資格なんてない。お前は弱すぎる……弱いものはただ消えるだけだ」
「……!!」
「知りたいのなら強くなれ、ルルを守れるくらいに」
「……………………わかった、あたしに教えてくれよ、魔法」
「ふん、わりと素直だな。その方がいいぞ、ただでさえブスなのだから」
(こんのクソババア!!!)
こうして、アリィはペロージアに連れていかれて、魔法の特訓が始まった。




