72.心に従って
ルルディが助けた子供は、彼女の懸命な治癒魔法で一命をとりとめた。
その子を妖精界にある村人が去って広々としている人用の家に連れて帰った。
おぼつかない足取りの子供をルルディは支え、ベッドに横たわらせ、温かいお湯を用意し、その子の身体を丁寧に拭いていく。
「ごめんなさい、わたし魔力が弱くて少しずつしか治癒魔法をかけられないの。また魔力が回復してからもう一度治癒魔法をかけるから」
「…………」
「でも、よかった顔の腫れが少しひいたね。あれ? あなたって女の子?」
「…………どうして?」
「え?」
「どうして、あたしをたすけたの?」
黒髪の少女はかすれた声で尋ねる。その声は低くもなく高くもなく、ただ淡々としている。
その声色を聞くだけでルルディは悲しくなり涙が流れてしまいそうだった。
「…………想像する事しかできないけれど、あなたは今までとても生きていくのが大変だったのだと思う。でも、生きることをもう少しだけの間諦めないで、きっと楽しいことがたくさんあるから……」
黒髪の少女はただ静かに涙を流していた。
ルルディは少女の涙を拭うこともできず、何かさらに言葉をつづけることもできず身体を拭き続けた。
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人の世界から帰って来たペロージアは、野原で寝そべりながらぼーっと空を見続けてずっと考えごとに耽っていた。
(どうして………たしかにどうして、ボクはルルディを助けた? 今までボクはボクのしたいことをしてきた。やりたいことをやって、その行動に疑問なんてもったことなかったな)
「ペロージア姉さん、考え事?」
リリィが優しく微笑み、寝そべるペロージアの顔を覗き込む。
彼女は大妖精にしては他者の心の機微に敏感で、こうして話しかけるのだから不思議だとペロージアはふと思った。
「リリィ………ボクがどうしてルルディを助けたのか、考えていた」
「えぇ? それって今さら考えること? というか、理由もなく助けたの?」
「理由………そう、理由を探しているのだけれど………なかなか出てこない」
「ふふっ、でも、思えばその方が姉さんらしい」
「ボクらしい?」
「えぇ、姉さんは今までやりたいと思ったことをやってきたでしょう? そこには細かい理由なんて必要ないのよ。あなたはただ、あなたの心に従っただけ。私はそう思うわ」
「ボクの心………」
ペロージアはすくっと立ち上がって、何も言わずさっさとルルディのいる人用の家へとむかった。
「あらあら、さっそく、心に従ったのかしら?」
ペロージアが突然全く違う行動をすることにはリリィも慣れているので、困った顔でくすりと笑った。
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「ルル!」
ペロージアが黒髪の少女が眠っている寝室に、ノックなどの配慮もなく、勢いよく扉を開けて入って来た。
「お姉さま、しーっ、やっとあの子が眠ったのですよ」
「ルル」
ペロージアがルルディにまっすぐに歩み寄り、ルルディをしっかりと抱きしめる。
ルルディは突然に抱きしめられてびっくりしつつも、ペロージアがなにを考えているのか理解しようと彼女の顔を見上げた。
「お姉さま?」
「ルル、ボクは今までボクのやりたいようにしてきた。リリィ曰く心に従ってきたというらしい。ボクはこれからもボクのやりたいようにしかやらないし、言いたいことを言う。ルルディもそうすればいい」
「心に従って……わたしのやりたいように………?」
ペロージアはルルディをぎゅっと抱きしめた後、額にまた口づけをして、満足したのかスタスタと部屋から出て行ってしまった。
取り残されたルルディはぽかんとして、口づけをされた額を押さえる。
「ペロージアお姉さまなりの答え?励まし?なのかな……? いや、それもまたちょっと違うような……」
ルルディが振り向くと、静かに呼吸する少女の姿がある。
頬に残る涙の跡が彼女にこびりつく絶望のようだった。
布をお湯で濡らし、起こさないように慎重に涙の跡を拭って消した。
(わたしの心に従う………わたしがどうしたって、欠陥品だっていう事実は消えない……これは産まれる前から決まっていること、変えることはできない。なら、わたしはわたしにできることを精一杯やりたい)
ルルディは決心を固くし、新しく来た住人が心地よく暮らせるように準備を始めた。




