67.因果
城のホールがヴィオラ捜索本部となり、多くの人が城の者から情報を聞き出したり、情報を紙に書きだしたり、とせわしなく動いている。
そして、重要参考人としてしょっ引かれたマデルはあの目も当てられないようなスケスケの状態では皆の気分が悪くなるので上から布をかぶせた状態で、縄でぐるぐる巻きにされて拘束されている。
「うああああん! 知らないっ、知らないっ、知らないってば!!」
「隠し立てするようなら命はないぞ」
「もうだから全部話したって! あのおばさんは急に家に現れて、マデルをお姫様にしてくれるって言ってたのに、魔法が解けちゃうなんて酷すぎる!」
「チッ、クソほど役に立たん。この豚を牢に入れておけ」
「は、豚? 牢屋? いやいや、こんな可愛いマデルを牢屋に入れるの? ありえない!! っていうかあいつがいなくなったならマデルがお嫁さんになればいいでしょう! さっきのことは許してあげるから!」
「これと言葉を交わすと吐き気がまたこみあげてくる……さっさと連れていけ」
マデルはみっともなく泣き叫んで足をじたばたとさせていたが、騎士団員に引っ張られて牢屋に連れていかれた。
一時でもあんなのを番だと思わされていたと思うと、おぞましさでまた吐いてしまいそうなほど気分が悪くなった。
「正気に戻ってから改めてあれを見ると……う、うぅ」
「殿下、気をしっかり持ってください。2点、報告があります」
「うむ、話せ」
「はい、まずはもともと殿下とヴィオラ様が使われていた部屋より回収した香の分析結果がでました。禁止薬物と指定されている植物サナトスが検出されました。殿下が理性を失われた原因はこれでしょう。しかも、効果がより高くなるように調合されていたそうです」
「だから僕はあんな真似を…………それを用意したのはチャフドットだ」
「なるほど、つながりました。今回のことは彼が関わっていたと考えて間違いないようです。魔法壁の出入りの記録を見ても不審者が入った形跡がなく、殿下のお考えの通り、おそらくはあの隠し通路を通ってここまでもぐりこんだのでしょう。彼であれば隠し通路を知っておりましたから」
「それでチャフドットの行方は?」
「はい、それが2点目で、チャフドット・イクリスが見つかりました……ですが………」
「無事ではなかったか……」
「命はあるようなのですが、全くこちらの反応には応じず、心神喪失状態でした……」
「……チャフドットは代々王族に仕えてきた家系で忠誠心もあった。なぜこのようなことを……あやつの家族に事情聴取の手配は?」
「しております。出来次第、調書を提出いたします」
シオンのもとに魔法で作り出した光る鳥が1羽戻って来て、肩にとまった。
「うむ……飛ばした魔法の鳥は反応がない。この城からはとっくに逃げ出したか……フランメは今回の主犯であろう魔法使いに関して、何か心当たりはないか? 特に妖精で……広範囲で、しかも父や母だけでなく、僕の記憶を書き換えられるほどの使い手となればそうそういないのだが……」
「……殿下に呪いをかけたペロージア様……それ以外にはワタシには……父でしたらなにか知っていそうですが……」
「……………………呪術」
シオンがぽつりと思い出したようにつぶやいた。
「フランメは呪術を知っているか?」
「呪術………殿下が呪いをかけられた際に敵対した者ですね……父から一度だけきいたことがあります。邪悪な力であると……何がどう邪悪なのか、いったいどんな力なのかまでは教えてはくれませんでしたが」
「殿下!!!!」
久々に聞こえたしわがれた声は旅に出ていたルコウの声であった。
あまりにも急いできたために、蝋は形を保っておらず、どろどろの塊になっている。
「ルコウ! よく戻った、ヴィオラが……」
「申し訳ございません!! この度のことは全てワタクシの責任にございます!!」
ルコウがまだ形も戻らず、どろどろの身体で床にひれ伏して詫びの言葉を叫ぶものだから、ホール全体がしんとした。
息子のフランメが父の初めて見る姿に狼狽しているのが見てとれる。
「どういうことだルコウ・ブージ、ヴィオラが誘拐された件について、何か知っているのか?」
シオンの声が重たくなり、空気がひりつく。
幼いころから仕えてきたルコウとはいえ、自分の大切な番が誘拐されたことに責任があると言われては心が乱れないわけがなかった。
「殿下……全てお話しいたします。おそらく、ヴィオラ様を誘拐した者の名は………アリィ」
「アリィ……? 何故ルコウが誘拐犯の名前を……?」
「かつて、その者はワタクシやペロージア、リリィ、3人の大妖精と……………ルルディというワタクシたちの妹と一緒に暮らしていたのです……」
「待て、話が追いつかん。誘拐犯と暮らしていた? 大妖精とは何なのだ? ルコウもその大妖精なのか? ルコウたちの妹? それに……………リリィ……ヴィオラの母と同じ名前だが偶然なのか……?」
「ヴィオラ様のお母さまの!? そ、それは本当ですか!? どのような人でしたか!?」
ルコウがやっと元のおじいさんの原型を取り戻して、どうしてかシオンにぐいぐいと迫っていく。あまりの勢いにシオンは一歩下がった。
「ヴィオラが言っていたが……とても、背が高く穏やかな人で、髪は紺色、瞳は金色をしていた、と………」
「あ、あああぁ……やっと……つながりました……そうですか……ヴィオラ様はリリィの……あぁ、リリィは子を成していたのですね……しかも、あの子の生き写しのような……うううぅ……そして、ヴィオラ様とあなた様が……これは、運命なのか……」
ルコウがおいおいと泣き始めてしまい、シオンも怒るに怒れなくフランメと顔を見合わせた。
「父上……一から殿下にご説明を……これではなんのことかわかりません」
「そう、そうだな……殿下、とてもとても長い話になります。しかし、これはあなた様とヴィオラ様、お二人ともに関係のあるお話です……」
「ヴィオラと……僕もか? 長くてもいい、全て話せ」
「はい……」
こうして、ルコウが話し始めたことはあまりにも壮大で、この誘拐事件自体がずっとずっと昔からの因果が関わっていると理解した時には、その場にいた全員が動揺と困惑に包まれた。




